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2008年1月27日に発生した高千穂峡の岩壁崩落にともなう振動波形について

九州大学地震火山観測研究センター

高千穂峡の岩壁崩落について

       報道によりますと,2008年(平成20年)1月27日12時40分ごろに宮崎県高千穂町三田井の高千穂峡で五ケ瀬川に沿った岸壁が高さ 約30メートル,幅50メールにわたって崩落し,土砂が対岸まで届いて川を埋めているのが見つかりました.

       さいわいけが人はありませんでしたが,五ケ瀬川を塞いだ約1000立方メートルの土砂の撤去が必要となっています.付近は阿蘇カルデラ起源の溶結凝灰岩の見事な柱状節理が発達しており,割れ目にしみ込んだ水が 凍って膨張し,亀裂を広げて崩れたものと考えられています.

       

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    付近の地図(GoogleEarthより)

 振動波形について

     九州大学地震火山観測研究センターでは,気象庁や防災科学研究所と共同で九州地区の地震観測研究を行っています.当日の波形を確認したところ,以下の4地点で崩落に伴う振動波形が微小ながら確認されました.

     

     初動部分の震源決定の結果,震源地と発生時刻は以下のように推定されました.震源地点は報道により示されている地点とほぼ同一です.

観測点名
  • Hi-net五ヶ瀬(GKSH) 震源距離 約9km
  • 九大竹田(tkd) 震源距離 約15km
  • 気象庁宮崎北方(JKIT) 震源距離 約17km
  • Hi-net諸塚(MRTH) 震源距離 約21km

決定された震源要素

  • 北緯 32.70度  東経 131.30度
  • 深さ 0km
  • 発震時 2008年1月27日 
  • 12時44分 50.2秒
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記録された波形(上下動成分).気象庁宮崎北方やHi-net諸塚にも微小な波形は記録されている.
 

 波形の特徴

     下にHi-net五ヶ瀬の上下動成分の波形を示します.上段は短周期成分のみを強調した波形,下段は,オリジナル波形です.記録には4つの相(フェーズ)見られます.このうち最初の3つが短周期のもので,4つ目が 周期1.2秒程度の長い振動になっています.
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 フェーズ(相)の伝搬速度

       4つのフェーズ(相)が見えるからといって,必ずしも4回の崩落があったとは考えられません.これは,1つの発生源でも,P波,S波,表面波,反射波など複数モードの波が発生する可能性があるからです.とくに,今回の波形では4番目の周期の長い振動はほかの3つのフェーズとは異質であり,通常ならば表面波かS波ではないかと疑ってしまいます.しかし,右図のように6.0km/sの速度をもつフェーズが縦に並ぶように各点の地震波形をずらしてプロットすると,4番目のフェーズもほかの1〜3番目のフェーズと同様に,ほぼ6km/sで伝搬していることが分かります.

       

       また,水平動成分の振幅より上下動成分の振幅のほうが大きく,S波でもありません.

       

       したがって,このフェーズも他のフェーズと同じようにP波であると推測されます.周期が長く振幅も大きいのは,震源での崩落様式が他の崩落時と異なっていたためと思われます.

    wave3

 崩落のシナリオ

    これらのことから,崩落は以下のようなシナリオで進んだと考えられます.
  • 12時44分50.2秒 最初の崩落が発生する.発生した振動のエネルギーは地震に換算すると規模はマグニチュード -0.6程度
  • 12時44分53.7秒 2回目の崩落が発生.最初の崩落と同規模(マグニチュード -0.6程度)
  • 12時44分55.7秒 3回目の崩落が発生.最初の崩落より2倍程度大きな規模(マグニチュード -0.4程度)
  • 12時44分57.2秒 大規模な岩盤剥落をともなう崩落が発生し,周期の長い振動が発生.発生した振動エネルギーは最初の崩落の20倍程度(マグニチュード 0.2程度)
Last Update:Feb. 5, 2008 文責:松島 健

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