定期火山情報

第3号

平成8年3月11日10時00分
雲仙岳測候所発表
火山名:雲仙岳

1  概 況
 2月の雲仙普賢岳の火山活動は,火砕流と思われる震動波形を約1年ぶりに6回観測しました。8日以降溶岩ドーム南東側で溶岩の崩落が観測され,10日から15日には,溶岩の崩落と思われる微動を37回観測しました。
 これらは溶岩ドームが風化して不安定になった部分が崩落しているものと考えられます。また、これ以降の期間,溶岩ドームの形状にはほとんど変化が見られず,火山性地震と火山性微動はともに少ない状態で推移しました。
 3月に入ってからも、火山活動は落ち着いた状態が続いています。

2  震 動 観 測
 2月の火山性地震・火山性微動・火砕流と思われる震動波形の発生回数は第1表のとおりで,島原半島付近の火山性地震の震源分布は第1図のとおりです。


第1表 火山性地震・火山性微動・火砕流と思われる震動波形の旬別回数
(カッコ内は,先月の回数)
火山性地震火山性微動火砕流波形
上旬4(4)5(2)2(0)
中旬2(0)33(2)4(0)
下旬3(2)0(1)0(0)
月合計9(6)38(5)6(0)

(1) 火山性地震
 2月の火山性地震の発生回数は9回でした。これらはすべて,有明海や橘湾など島原半島周辺で発生する比較的深い地震(A型地震)でした。普賢岳山体を震源とする比較的浅い地震(B型地震)は観測されませんでした。
 3月に入って10日までの火山性地震の発生回数は,2回と少ない状態が続いています。

第1図 1996年2月の島原半島付近の地震の震源分布

(2) 火山性微動
 2月は火山性微動を38回観測し、すべて溶岩の崩落による微動でした。
 3月は10日までの火山性微動の発生回数は1回で,溶岩の崩落による微動でした。
(3) 火砕流
 2月の火山性微動のうち6回は火砕流と思われる震動波形でした(10日16時37分:継続時間40秒,10日16時39分:継続時間40秒,12日06時07分:継続時間60秒,12日06時082分:継続時間40秒,12日17時23分:継続時間50秒,13日11時25分:継続時間60秒,いずれも南東(赤松谷方向に約1.5キロメートル流下)。岩床山からの現地観測では火砕流の堆積物は、6合目付近まで達していました。これらの火砕流は昨年2月11日以来約1年ぶりに観測されました。この火砕流は新たなマグマの噴出によるものではなく第8ド−ムの不安定な古い溶岩ドームの一部が崩落したものと思われます。これらの火砕流では、被害はありませんでした。
 3月は10日まで火砕流と思われる震動波形は、観測されていません。

3  現地観測 
(1)機上観測
 2月は自衛隊ヘリによる上空からの観測は実施しませんでした。
(2)温泉観測
 2月20日に雲仙地獄,小浜温泉の現地観測を実施しましたが,特に変化はありませんでした。小浜町山領における井戸の水位観測を実施しましたが,井戸の深さは8.9mで特に変化はありませんでした。

4  遠 望 観 測
 2月の遠望観測による噴煙の最高高度は500m(10日16時37分,39分の火砕流による噴煙)でした。その他の観測された噴煙は,少量の噴煙でド−ム頂上付近からのものでした。

5  地殻変形観測
(1)傾斜計による観測結果
 2月は傾斜変動は観測されていません。3月も10日までに傾斜変動は観測されていません。
(2)セオドライト(経緯儀)による溶岩ド−ム観測結果
 この期間のセオドライト(経緯儀)を用いた観測による,溶岩ド−ムの状況は第2図のとおりで,溶岩ド−ムの形状に大きな変化はありません。


第2図 溶岩ド−ムの稜線変化(1996/2/7−3/6 仁田峠第2展望台)

(3)光波測量観測結果
 通産省工業技術院地質調査所と気象庁で行っている光波測量によると,普賢岳旧山体に付けた反射鏡との斜距離は北側及び南側の測線ともに,ほとんど変化はありませんでした。
 また,九州大学との共同観測による溶岩ドームに設置した反射鏡との斜距離変化は第3図,第4図のとおりです。溶岩ド−ム西側隆起部南東側に設置されている反射鏡(D2)と仁田第2展望台観測定点の間は303日間に654mm,溶岩ドーム西側隆起部北西側に設置されている反射鏡(D1)と礫石原観測定点の間は329日間に598mm縮んでいます。これは反射鏡を設置した溶岩塊がずり落ちているものによると思われます。


第3図 溶岩ドームまでの斜距離変化(1995/5/8-1996/3/6:T6(仁田第2)−D2)

第4図 溶岩ドームまでの斜距離変化(1995/4/12-96/3/6:T5(礫石原)−D1)

6 土 石 流
 2月は土石流と思われる震動波形は観測されませんでした。
 3月も10日までは土石流は観測されていません。

7 火山情報の発表状況
 2月1日以降,緊急火山情報,臨時火山情報の発表はありませんでした。
 火山観測情報は,2月29日までに62号を発表しています。
  なお、2月13日と2月15日には火砕流と思われる震動波形について観測情報を発表しました。