定期火山情報

第3号

平成6年9月16日16時00分
雲仙岳測候所発表
火山名:雲仙岳

 

1 概 況
 7月12日に九州大学島原地震火山観測所の機上観測により,第13溶岩ドームの出現が確認されました。また,溶岩ドーム西側の隆起部は依然として隆起と崩落を繰り返し,8月下旬にはこの部分から連続的な崩落が起こりました。
 溶岩の供給は依然続いており,溶岩ドーム西側の隆起部は成長と崩落を繰り返しており,時折継続時間の長い火砕流も発生しています。また,地震の増加も観測されており,火山活動は依然活発な状態が続いています。

2 火砕流
 この期間の火砕流の発生状況は,第1図から第5図及び第1表のとおりです。なお,ここで火砕流の到達距離と方向は,旧地獄跡火口からの水平直線距離と方向で表しています。
5月
 5月の火砕流と思われる震動波形の発生回数は33回でした。5月に入り,火口北北西(三会川)方向への崩落は減少しました。上旬は主に火口南東(赤松谷)方向へ崩落し,中旬以降は火口南西(龍の馬場)方向へ崩落しました(第3図)。下旬に入り火砕流の発生回数は減少しました。
 これらの火砕流のうち最も継続時間の長いものは12日16時13分の230秒でした。また,確認できた最も長い到達距離は,3日03時45分(継続時間40秒),8日01時38分(継続時間110秒)の2.5キロメートルで,いずれも火口南東(赤松谷)方向へ流下しました。
6月
 6月の火砕流と思われる震動波形の発生回数は105回でした。火砕流は上旬から中旬にかけては火口南西(龍の馬場)方向に発生し,15日からは火口南東(赤松谷)方向へも発生するようになりました。また,24日からは主に火口北北西(三会川)方向に発生するようになりました(第3図)。
 これらの火砕流のうち最も継続時間の長いものは19日19時48分の200秒(距 離方向とも不明)でした。また,確認できた最も長い到達距離は,24日17時07分(継続時間50秒)の2.0キロメートルで,北北西(三会川)方向へ流下しました。
7月
 7月の火砕流と思われる震動波形の発生回数は44回で,特に第13溶岩ドーム出現前後に多く発生しました。
 6日頃まで火砕流の発生は少なく,火口北北西(三会川)方向に発生しました。7日頃から主に火口南東(赤松谷)方向への火砕流が観測されるようになりました。中旬に入ると火口南東(赤松谷)方向への火砕流の発生が比較的多くなり,1日に5〜6回発生しました。火砕流はその後減少し,20日以降は火口南東(赤松谷)方向への火砕流は減少しました(第3図)。
 これらの火砕流のうち最も到達距離の長かったものは7月8日21時08分(継続時間90秒),7月9日12時06分(継続時間100秒),7月10日00時41分(継続時間110秒),7月10日05時02分(継続時間110秒)の2キロメートルで,いずれも火口南東(赤松谷)方向へ流下しました。
8月
 8月の火砕流と思われる震動波形の発生回数は264回でした(ひと月の火砕流と思われる震動波形の発生回数が200回を超えたのは1993年7月以来です)。
 これらの火砕流は,主に溶岩ドーム西側の隆起部からの崩落によるもので,初旬・中旬は火口南西(龍の馬湯)方向及び火口南東(赤松谷)方向へ流下しました。16日08時39分には継続時間が90秒の火砕流が発生し,火口南東(赤松谷)方向及び火口南(島の峰)方向に流下しました。このうち南に流下したものは島の峰の西側のリムを越え約1キロメートル流下しました。この火砕流により,立木がくすぶっているのを確認しました。
 下旬に入ると溶岩ドーム西側の隆起部からの崩落は多くなり,23日から25日にかけて火口南西(龍の馬場)方向の火砕流が多発しました。
 これらの火砕流のうち最も継続時間が長かったものは8月27日21時22分の1720秒で,これを含め,継続時間の長い波形が多く観測されました(第1表)。しかし,いずれもその振幅は小さく(第4図,昨年6月23日11時14分の中尾川方向に流下した火砕流で11μmでした),到達距離は,火口南西(龍の馬湯)方向へは最大2キロメートル,火口南東(赤松谷)方向へは最大2.5キロメートルでした。

 また,各月の火砕流の発生方向の頻度分布は第5図のとおりでした。

第1表 最近の主な火砕流(1994年5月−1994年8月)
(震動波形の継続時間180秒以上,または水平到達距離3km以上)
発生時間継続秒流下方向到達距離(km)備  考
12
16:13
230
南西(龍の馬場)方向
 
19
19:48
200
不明
不明
地震に伴う
23:47
180
南西(龍の馬場)方向
 
22
0:21
210
南西(龍の馬場)方向
地震に伴う
22
2:14
190
南西(龍の馬場)方向
 
22
15:26
180
南西(龍の馬場)方向
1.5
 
23
10:31
260
南西(龍の馬場)方向
1.5
 
23
22:32
220
南西(龍の馬場)方向
1.5
地震を含む
24
2:07
310
南西(龍の馬場)方向
1.5
 
24
2:57
180
南西(龍の馬場)方向
1.5
 
24
5:04
230
南西(龍の馬場)方向
1.5
 
25
2:12
220
南西(龍の馬場)方向
1.5
 
25
4:00
230
南西(龍の馬場)方向
1.5
地震を含む
25
7:28
260
南西(龍の馬場)方向
1.5
 
25
9:05
1070
南西(龍の馬場)から
南東(赤松谷)方向
地震を含む。仁田峠より遠望
25
9:25
190
不明
不明
 
25
9:31
590
不明
不明
地震を含む
25
10:13
240
南西(龍の馬場)から
南東(赤松谷)方向
 
25
10:18
640
南西(龍の馬場)から
南東(赤松谷)方向
地震を含む
25
15:58
230
南西(龍の馬場)から
南東(赤松谷)方向
 
25
21:21
180
南西(龍の馬場)から
南東(赤松谷)方向
 
26
12:17
270
南西(龍の馬場)から
南東(赤松谷)方向

地震を含む
27
21:22
1720
南西(龍の馬場)から
南東(赤松谷)方向
地震を含む
27
21:52
250
南西(龍の馬場)方向
不明
 
29
6:40
190
南東(赤松谷)方向
2.5
地震に伴う


第1図 火砕流と思われる震動波形の発生状況(1991年5月以降)


第2図 火砕流と思われる震動波形の発生状況(1994年5月以降)


第3図 方向別火砕流の発生状況(1994年5月以降)


第4図 火砕流と思われる震動波形の振幅(1994年5月以降)


第5図 各月の火砕流の発生方向分布


3 震動観測
 この期間の地震・微動・火砕流と思われる震動波形の発生状況の推移は第2表,及び第7図から第9図のとおりであり,この期間の地震の震源分布は第6図のとおりです。
 なお,ここで用いている地震微動等の回数は速報値であり,後日訂正されることがあります。また,振幅,周期のデータは自動験測値です。
5月
 普賢岳出体を震源とする比較的浅い地震の1日の発生回数は,4月末から200回程度と比較的多い状態でしたが,5月に入ると減少しました。地震回数は,多いときには1日に200回前後,少ないときには1日に40回程度となるなど消長を繰り返しました(第7図)。
 5月の火山性地震回数は3171回(いずれも無感)でした。
6月
 普賢岳山体を震源とする比較的浅い地震は,上旬は1日150回から200回程度と比較的多い状態で推移しましたが,中旬に入ると減少し,その後は40回から60回程度で推移しました。下旬には比較的振幅の大きな地震(最も大きなものでA点上下動で約12μm)も発生しました(第8図)。
 6月の火山性地震回数は3279回(いずれも無感)でした。
7月
 普賢岳山体を震源とする比較的浅い地震は,上旬は1日100回以下で推移しました。 中旬に入ると地震回数は増加し,7月15日には1日で372回の地震を観測しました。 その後地震の発生回数は減少し,下旬は1日当たり20〜40回程度で推移しました。 26日から月末にかけては比較的振幅の大きな地震(最も大きなものでA点上下動で約12μm)も発生するようになりました(第8図)。
 7月の火山性地震回数は2488回(いずれも無感)でした。
8月
 普賢岳山体を震源とする比較的浅い地震の発生回数は,8月に入り後々に増加し,8月28日には1日で474回の地震を観測しました(第7図)。これらの地震の振幅はそのほとんどが2μm以下でした。また比較的周期の短い地震も多く含まれていました。
 8月の火山性地震回数は7306回(いずれも無感)でした。

第2表 月別地震・微動・火砕流と思われる震動波形数
有感地震
回  数
無感地震
回  数
総 地 震
回  数
微動回数火 砕 流
震動回数
5月03171317129933
6月032793279508105
7月02488248845744
8月0730673061373264
合計016244162442637446


第6図 1994年5月−8月の島原半島付近の地震の震源分布


第7図 日別地震回数の推移(1994年5月以降)


第8図 1994年5月からの地震の振幅の推移


第9図 微動の発生状況(1994年5月以降)


4 現地観測

(1)機上観測
第10図 溶岩ドーム西側上空より見た西側隆起
6/21自衛隊ヘリより撮影

・6月21日
 溶岩ドーム西側の隆起部の頂部付近は板状の溶岩魂が露出しており,この部分には東西方向の亀裂が見られました。また,この頂部は南北に2つのピークを形成していました(第10図)。第11溶岩ドームは大きな変化はありませんでした。第12溶岩ドームには成長や,新たな溶岩の湧き出しは見られませんでした。
 比較的新しい火砕流堆積物の状況は,火口南西(龍の馬湯)方向から南東(赤松谷)方向に向かう谷筋に火口から約1.5キロメートルほどまで達していました。これらによる堆積物が島の峰のテラスをほぼ埋めつくしていました。火口北北西(三会川)方向でも,新しい崩落堆積物が少量確認できました。
 火口北東(おしが谷)方向、火口東(水無川)方向に火砕流の発生はなく、前回の観測と比べて大きな変化はありませんでした。
第11図 南東側上空から見た第13溶岩ドーム
7/13自衛隊ヘリより撮影

・7月13日
 もとの第12溶岩ドームとほぼ同じ位置に第13溶岩ドームが出現していました(第11図)。第13溶岩ドームは,新鮮な灰色のブロック状になっており,一つ一つのブロックは小さく,北西−南東方向に割れ目が入っていました。第13溶岩ドームから噴煙はでていませんでした。溶岩ドーム西側の隆起部は,前回の観測で隆起部に南北のピークが確認されて,このうち南側のピークが最高部でしたが,今回の観測ではこの南北のピークの間に新しいピークができており,このピークが最高部でした。第11溶岩ドームは前回の観測と比べ大きな変化はなく,引き続きやせ細っていく傾向でした。
 第8,第9溶岩ドームは西側が深くえぐられ,一部不安定な状況でした。
 比較的新しい火砕流堆積物の状況は,火口南東(赤松谷)方向に,第13溶岩ドームからの灰色を帯びた堆積物が,約1キロメートル付近まで達していました。その他の方向については前回と大きな変化はありませんでした。
・7月28日
 第13溶岩ドームは,色は灰色で,成長している様子はありませんでした。噴煙は雲のため確認できませんでした。その他のドームについては前回の観測と大きな変化はありませんでした。
 火砕流堆積物の状況も前回と大きな変化は無く,火口南東(赤松谷)方向へ灰色の堆積物が約1キロメートル付近まで達していました。
第12図 西側上空から見た西側隆起部
8/9自衛隊ヘリより撮影

・8月9日
 第13溶岩ドームは,色は灰色で,前回の観測と比べ小さくなっていました。溶岩ドーム西側の隆起部は,前回の観測と同様に南北に3つのピークが並び,中央のピークが最高部でしたが,北側のピークは低くなり,中央のピークも崩落により,低くなっていました。南北のピーク間の一帯から白色及び青白色の噴煙がでていました。その他のドームについては大きな変化はありませんでした。また,前回まで観測されていた立ち岩付近の噴気はありませんでした。
 比較的新しい火砕流堆積物の状況は,火口南東(赤松谷)方向に第13溶岩ドームからの灰色を帯びた堆積物が,約1キロメートル付近まで達していました。その他の方向についても前回と大きな変化はありませんでした。
・8月23日
 第13溶岩ドームは灰色で,その大きさは更に小さくなっていました。溶岩ドーム西側の隆起部の3つのピークは今回は2つしか確認できませんでした。これらのピーク間の一帯から白色の噴気がでていました。その他のドームについては前回の観測と大きな変化はありませんでした。
 溶岩ドーム西側の隆起部の頂部付近から白色の噴煙が100メートルほど上がり,雲に入っていました。溶岩ドーム北側斜面の8合目付近で青白色の少量の噴気がありました。また,立ち岩付近から再び白色噴煙が高さ50メートルほどに上がっていました。   火砕流堆積物の状況も前回と大きな変化はありませんでした。

(2)温泉観測  雲仙地獄,小浜温泉の現地観測を実施しました。主な地点の観測結果は第3表のとおりです。9月に清七地獄の噴気に少し高い温度が観測されましたが,その他に大きな変化はありませんでした。

第3表 温泉地獄観測表
月 日小 地 獄大叫喚地獄清七 地獄お糸 地獄


6/958949492
7/659949394
8/469949592
9/165919591


6/996979797
7/696979697
8/495979797
9/1969710297


6/997959897
7/695989698
8/498989898
9/195989897


6/92.11.31.82.3
7/62.52.22.32.1
8/42.21.61.72.1
9/12.51.52.02.5

(3)井戸の水位
 小浜町山領における井戸の水位観測の結果は第4表のとおりでした。
第4表 井戸の水位 単位:メートル
月  日6/97/68/49/1
水面までの深さ6.55.76.25.9

5 遠望観測
(1)遠望観測  5月から8月の遠望観測による噴煙高度の状況は第13図のとおりでした。8月下旬には溶岩ドーム西側の隆起部の南斜面が連続的に崩落し,これに伴い噴煙が高く上がり,8月25日10時18分(継続時間640秒)の火砕流による噴煙は高さ1500メートルまで上がりました。


第13−1図  噴煙高(定時観測分)


第13−2図 噴煙高(火砕流・崩落による噴煙)


(2)セオドライト(経緯儀)による観測
 5月から8月にかけて観測したセオドライト(経緯儀)を用いたドームの変化量の主な結果は,第14図のとおりでした。
 この期間,溶岩ドームの西側で隆起と崩落を繰り返していますが,この部分でゆっくりとした移動を観測しました(第14−1,14−2図)。
 一方第13溶岩ドームは,既存ドームよりもかなり速い速度で移動していました。(第14−3図)
 なお,図中の矢印は3時間当たりの移動方向と量であり,単位はメートルです。


第14図  セオドライト観測による溶岩ドームの動き
(1994/6/17/−6/21:仁田峠第2展望台より)


第14−2図 セオドライト観測による溶岩ドームの動き
(1994/7/4−7/8:仁田峠第2展望台より)


第14−3図 セオドライト観測による第13溶岩ドームの動き
(1994/7/15 仁田峠第2展望台より)


(3)第11溶岩ドームの成長の状況
 この期間のセオドライト(経緯儀)による溶岩ドームの成長の状況は第15図のとおりです。また,溶岩ドームの最高点の標高の変化は第16図のとおりです。
・5月
 4月下旬に,溶岩ドームの西側への張り出しはほぼ停止しましたが,鳥甲山からの稜線観測によると,中旬頃から溶岩ドーム南西側へゆっくりとした成長を始めました。
・6月
 溶岩ドーム南西側の張り出しは,6月いっぱい続き,下旬には停止しました。
・7月
 12日に,第13ドームの出現が九大島原地震火山観測所の機上観測で確認されました。しかし,この溶岩ドームの成長は下旬に入るとほぼ停止しました。
 中旬には鳥甲山からの稜線観測により溶岩ドーム北西部で既存ドームの隆起が観測されました。
 下旬に入ると溶岩ドーム北西部の隆起は停止しましたが,新大野木湯からの稜線観測によると溶岩ドームの南側への張り出しが観測されました。
・8月
 7月に引き続き溶岩ドーム南側への張り出しが続いており,下旬にはこの部分からの崩落が頻繁に発生しました。


第15−1図 溶岩ドームの稜線変化(1994/5/27−8/29:仁田峠第2展望台より)


第15−2図 溶岩ドームの稜線変化(1994/5/16−9/8:新大野木場より)


第16図 溶岩ドームの標高変化(1993/12/7−1994/9/28:仁田峠第2展望台より)


(4)地殻変動
 通産省工業技術院地質調査所と気象庁で行っている光波測量によると,6月下旬から7月上旬にかけて普賢岳北側の測線T4−FlOで距離の縮みが観測されましたが7月中旬にはほぼ停止しました(第17図)。
 その他の観測点については特に大きな変化は観測されていません。


第17図 普賢岳北側の測線T4−F10の距離変化


6 降灰観測
 この期間の雲仙岳測候所における降灰量の観測状況は第6表のとおりです。

第6表 日降灰量(前日の9時から当日の9時までの1m2当たりの降灰の重さ)
単位:g/m2

5月6月7月8月
降灰量降灰量降灰量降灰量
1320.730.0100.350.0
140.040.0140.060.0
300.050.0150.090.0
  60.0160.9130.0
  70.0170.0140.0
  140.0180.9180.0
  150.6190.0190.0
  160.3200.0200.3
  172.7210.0210.3
  210.0220.0222.1
    230.0232.7
    240.6240.0
    250.0250.0
    310.0300.0
      310.0
合計20.7合計3.6合計2.7合計5.4

7 情報の発表状況
 5月1日以降に発表した緊急火山情報及び臨時火山情報は次のとおりです。また火山観測情報は,8月31日までに251号を発表しています。
(1)緊急火山情報
 この期間の緊急火山情報の発表はありません。
(2)臨時火山情報
 平成6年 5月 3日04時05分 第11号 赤松谷方向への火砕流頻発
 平成6年 5月12日21時10分 第12号 龍の馬湯方向への火砕流頻発
 平成6年 6月 3日17時35分 第13号 火山噴火予知連絡会の統一見解
 平成6年 7月12日10時40分 第14号 第13溶岩ドームの出現確認
 平成6年 8月16日01時40分 第15号 赤松谷及び龍の馬場方向への火砕流多発
 平成6年 8月24日21時05分 第16号 龍の馬場方向への火砕流多発
 平成6年 8月25日09時30分 第17号 龍の馬場方向への火砕流多発