1 概 況
2 火砕流
この期間の火砕流の発生状況は,第1図から第5図及び第1表のとおりです。なお,ここで火砕流の到達距離と方向は,旧地獄跡火口からの水平直線距離と方向で表しています。
5月
5月の火砕流と思われる震動波形の発生回数は33回でした。5月に入り,火口北北西(三会川)方向への崩落は減少しました。上旬は主に火口南東(赤松谷)方向へ崩落し,中旬以降は火口南西(龍の馬場)方向へ崩落しました(第3図)。下旬に入り火砕流の発生回数は減少しました。
これらの火砕流のうち最も継続時間の長いものは12日16時13分の230秒でした。また,確認できた最も長い到達距離は,3日03時45分(継続時間40秒),8日01時38分(継続時間110秒)の2.5キロメートルで,いずれも火口南東(赤松谷)方向へ流下しました。
6月
6月の火砕流と思われる震動波形の発生回数は105回でした。火砕流は上旬から中旬にかけては火口南西(龍の馬場)方向に発生し,15日からは火口南東(赤松谷)方向へも発生するようになりました。また,24日からは主に火口北北西(三会川)方向に発生するようになりました(第3図)。
これらの火砕流のうち最も継続時間の長いものは19日19時48分の200秒(距 離方向とも不明)でした。また,確認できた最も長い到達距離は,24日17時07分(継続時間50秒)の2.0キロメートルで,北北西(三会川)方向へ流下しました。
7月
7月の火砕流と思われる震動波形の発生回数は44回で,特に第13溶岩ドーム出現前後に多く発生しました。
6日頃まで火砕流の発生は少なく,火口北北西(三会川)方向に発生しました。7日頃から主に火口南東(赤松谷)方向への火砕流が観測されるようになりました。中旬に入ると火口南東(赤松谷)方向への火砕流の発生が比較的多くなり,1日に5〜6回発生しました。火砕流はその後減少し,20日以降は火口南東(赤松谷)方向への火砕流は減少しました(第3図)。
これらの火砕流のうち最も到達距離の長かったものは7月8日21時08分(継続時間90秒),7月9日12時06分(継続時間100秒),7月10日00時41分(継続時間110秒),7月10日05時02分(継続時間110秒)の2キロメートルで,いずれも火口南東(赤松谷)方向へ流下しました。
8月
8月の火砕流と思われる震動波形の発生回数は264回でした(ひと月の火砕流と思われる震動波形の発生回数が200回を超えたのは1993年7月以来です)。
これらの火砕流は,主に溶岩ドーム西側の隆起部からの崩落によるもので,初旬・中旬は火口南西(龍の馬湯)方向及び火口南東(赤松谷)方向へ流下しました。16日08時39分には継続時間が90秒の火砕流が発生し,火口南東(赤松谷)方向及び火口南(島の峰)方向に流下しました。このうち南に流下したものは島の峰の西側のリムを越え約1キロメートル流下しました。この火砕流により,立木がくすぶっているのを確認しました。
下旬に入ると溶岩ドーム西側の隆起部からの崩落は多くなり,23日から25日にかけて火口南西(龍の馬場)方向の火砕流が多発しました。
これらの火砕流のうち最も継続時間が長かったものは8月27日21時22分の1720秒で,これを含め,継続時間の長い波形が多く観測されました(第1表)。しかし,いずれもその振幅は小さく(第4図,昨年6月23日11時14分の中尾川方向に流下した火砕流で11μmでした),到達距離は,火口南西(龍の馬湯)方向へは最大2キロメートル,火口南東(赤松谷)方向へは最大2.5キロメートルでした。
また,各月の火砕流の発生方向の頻度分布は第5図のとおりでした。
月 | 日 | 発生時間 | 継続秒 | 流下方向 | 到達距離(km) | 備 考 |
---|---|---|---|---|---|---|
5 | 12 | 16:13 |
230 | 南西(龍の馬場)方向 | 1 | |
6 | 19 | 19:48 |
200 | 不明 | 不明 | 地震に伴う |
8 | 8 | 23:47 |
180 | 南西(龍の馬場)方向 | 1 | |
8 | 22 | 0:21 |
210 | 南西(龍の馬場)方向 | 1 | 地震に伴う |
8 | 22 | 2:14 |
190 | 南西(龍の馬場)方向 | 1 | |
8 | 22 | 15:26 |
180 | 南西(龍の馬場)方向 | 1.5 | |
8 | 23 | 10:31 |
260 | 南西(龍の馬場)方向 | 1.5 | |
8 | 23 | 22:32 |
220 | 南西(龍の馬場)方向 | 1.5 | 地震を含む |
8 | 24 | 2:07 |
310 | 南西(龍の馬場)方向 | 1.5 | |
8 | 24 | 2:57 |
180 | 南西(龍の馬場)方向 | 1.5 | |
8 | 24 | 5:04 |
230 | 南西(龍の馬場)方向 | 1.5 | |
8 | 25 | 2:12 |
220 | 南西(龍の馬場)方向 | 1.5 | |
8 | 25 | 4:00 |
230 | 南西(龍の馬場)方向 | 1.5 | 地震を含む |
8 | 25 | 7:28 |
260 | 南西(龍の馬場)方向 | 1.5 | |
8 | 25 | 9:05 |
1070 | 南西(龍の馬場)から 南東(赤松谷)方向 | 2 | 地震を含む。仁田峠より遠望 |
8 | 25 | 9:25 |
190 | 不明 | 不明 | |
8 | 25 | 9:31 |
590 | 不明 | 不明 | 地震を含む |
8 | 25 | 10:13 |
240 | 南西(龍の馬場)から 南東(赤松谷)方向 | 2 | |
8 | 25 | 10:18 |
640 | 南西(龍の馬場)から 南東(赤松谷)方向 | 2 | 地震を含む |
8 | 25 | 15:58 |
230 | 南西(龍の馬場)から 南東(赤松谷)方向 | 2 | |
8 | 25 | 21:21 |
180 | 南西(龍の馬場)から 南東(赤松谷)方向 | 2 | |
8 | 26 | 12:17 |
270 | 南西(龍の馬場)から 南東(赤松谷)方向 | 2 1 | 地震を含む |
8 | 27 | 21:22 |
1720 | 南西(龍の馬場)から 南東(赤松谷)方向 | 2 | 地震を含む |
8 | 27 | 21:52 |
250 | 南西(龍の馬場)方向 | 不明 | |
8 | 29 | 6:40 |
190 | 南東(赤松谷)方向 | 2.5 | 地震に伴う |
第1図 火砕流と思われる震動波形の発生状況(1991年5月以降)
第2図 火砕流と思われる震動波形の発生状況(1994年5月以降)
第3図 方向別火砕流の発生状況(1994年5月以降)
第4図 火砕流と思われる震動波形の振幅(1994年5月以降)
第5図 各月の火砕流の発生方向分布
3 震動観測
この期間の地震・微動・火砕流と思われる震動波形の発生状況の推移は第2表,及び第7図から第9図のとおりであり,この期間の地震の震源分布は第6図のとおりです。
なお,ここで用いている地震微動等の回数は速報値であり,後日訂正されることがあります。また,振幅,周期のデータは自動験測値です。
5月
普賢岳出体を震源とする比較的浅い地震の1日の発生回数は,4月末から200回程度と比較的多い状態でしたが,5月に入ると減少しました。地震回数は,多いときには1日に200回前後,少ないときには1日に40回程度となるなど消長を繰り返しました(第7図)。
5月の火山性地震回数は3171回(いずれも無感)でした。
6月
普賢岳山体を震源とする比較的浅い地震は,上旬は1日150回から200回程度と比較的多い状態で推移しましたが,中旬に入ると減少し,その後は40回から60回程度で推移しました。下旬には比較的振幅の大きな地震(最も大きなものでA点上下動で約12μm)も発生しました(第8図)。
6月の火山性地震回数は3279回(いずれも無感)でした。
7月
普賢岳山体を震源とする比較的浅い地震は,上旬は1日100回以下で推移しました。
中旬に入ると地震回数は増加し,7月15日には1日で372回の地震を観測しました。
その後地震の発生回数は減少し,下旬は1日当たり20〜40回程度で推移しました。
26日から月末にかけては比較的振幅の大きな地震(最も大きなものでA点上下動で約12μm)も発生するようになりました(第8図)。
7月の火山性地震回数は2488回(いずれも無感)でした。
8月
普賢岳山体を震源とする比較的浅い地震の発生回数は,8月に入り後々に増加し,8月28日には1日で474回の地震を観測しました(第7図)。これらの地震の振幅はそのほとんどが2μm以下でした。また比較的周期の短い地震も多く含まれていました。
8月の火山性地震回数は7306回(いずれも無感)でした。
月 | 有感地震 回 数 | 無感地震 回 数 | 総 地 震 回 数 | 微動回数 | 火 砕 流 震動回数 |
---|---|---|---|---|---|
5月 | 0 | 3171 | 3171 | 299 | 33 |
6月 | 0 | 3279 | 3279 | 508 | 105 |
7月 | 0 | 2488 | 2488 | 457 | 44 |
8月 | 0 | 7306 | 7306 | 1373 | 264 |
合計 | 0 | 16244 | 16244 | 2637 | 446 |
第6図 1994年5月−8月の島原半島付近の地震の震源分布
第7図 日別地震回数の推移(1994年5月以降)
第8図 1994年5月からの地震の振幅の推移
第9図 微動の発生状況(1994年5月以降)
4 現地観測
(1)機上観測
第10図 溶岩ドーム西側上空より見た西側隆起 6/21自衛隊ヘリより撮影 |
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第11図 南東側上空から見た第13溶岩ドーム 7/13自衛隊ヘリより撮影 |
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第12図 西側上空から見た西側隆起部 8/9自衛隊ヘリより撮影 |
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(2)温泉観測 雲仙地獄,小浜温泉の現地観測を実施しました。主な地点の観測結果は第3表のとおりです。9月に清七地獄の噴気に少し高い温度が観測されましたが,その他に大きな変化はありませんでした。
月 日 | 小 地 獄 | 大叫喚地獄 | 清七 地獄 | お糸 地獄 | |
---|---|---|---|---|---|
泉 温 | 6/9 | 58 | 94 | 94 | 92 |
7/6 | 59 | 94 | 93 | 94 | |
8/4 | 69 | 94 | 95 | 92 | |
9/1 | 65 | 91 | 95 | 91 | |
噴 気 温 | 6/9 | 96 | 97 | 97 | 97 |
7/6 | 96 | 97 | 96 | 97 | |
8/4 | 95 | 97 | 97 | 97 | |
9/1 | 96 | 97 | 102 | 97 | |
地 温 | 6/9 | 97 | 95 | 98 | 97 |
7/6 | 95 | 98 | 96 | 98 | |
8/4 | 98 | 98 | 98 | 98 | |
9/1 | 95 | 98 | 98 | 97 | |
P H | 6/9 | 2.1 | 1.3 | 1.8 | 2.3 |
7/6 | 2.5 | 2.2 | 2.3 | 2.1 | |
8/4 | 2.2 | 1.6 | 1.7 | 2.1 | |
9/1 | 2.5 | 1.5 | 2.0 | 2.5 |
月 日 | 6/9 | 7/6 | 8/4 | 9/1 |
---|---|---|---|---|
水面までの深さ | 6.5 | 5.7 | 6.2 | 5.9 |
5 遠望観測
(1)遠望観測
5月から8月の遠望観測による噴煙高度の状況は第13図のとおりでした。8月下旬には溶岩ドーム西側の隆起部の南斜面が連続的に崩落し,これに伴い噴煙が高く上がり,8月25日10時18分(継続時間640秒)の火砕流による噴煙は高さ1500メートルまで上がりました。
第13−1図 噴煙高(定時観測分)
第13−2図 噴煙高(火砕流・崩落による噴煙)
第14図 セオドライト観測による溶岩ドームの動き
(1994/6/17/−6/21:仁田峠第2展望台より)
第14−2図 セオドライト観測による溶岩ドームの動き
(1994/7/4−7/8:仁田峠第2展望台より)
第14−3図 セオドライト観測による第13溶岩ドームの動き
(1994/7/15 仁田峠第2展望台より)
第15−1図 溶岩ドームの稜線変化(1994/5/27−8/29:仁田峠第2展望台より)
第15−2図 溶岩ドームの稜線変化(1994/5/16−9/8:新大野木場より)
第16図 溶岩ドームの標高変化(1993/12/7−1994/9/28:仁田峠第2展望台より)
第17図 普賢岳北側の測線T4−F10の距離変化
6 降灰観測
この期間の雲仙岳測候所における降灰量の観測状況は第6表のとおりです。
5月 | 6月 | 7月 | 8月 | ||||
---|---|---|---|---|---|---|---|
日 | 降灰量 | 日 | 降灰量 | 日 | 降灰量 | 日 | 降灰量 |
13 | 20.7 | 3 | 0.0 | 10 | 0.3 | 5 | 0.0 |
14 | 0.0 | 4 | 0.0 | 14 | 0.0 | 6 | 0.0 |
30 | 0.0 | 5 | 0.0 | 15 | 0.0 | 9 | 0.0 |
6 | 0.0 | 16 | 0.9 | 13 | 0.0 | ||
7 | 0.0 | 17 | 0.0 | 14 | 0.0 | ||
14 | 0.0 | 18 | 0.9 | 18 | 0.0 | ||
15 | 0.6 | 19 | 0.0 | 19 | 0.0 | ||
16 | 0.3 | 20 | 0.0 | 20 | 0.3 | ||
17 | 2.7 | 21 | 0.0 | 21 | 0.3 | ||
21 | 0.0 | 22 | 0.0 | 22 | 2.1 | ||
23 | 0.0 | 23 | 2.7 | ||||
24 | 0.6 | 24 | 0.0 | ||||
25 | 0.0 | 25 | 0.0 | ||||
31 | 0.0 | 30 | 0.0 | ||||
31 | 0.0 | ||||||
合計 | 20.7 | 合計 | 3.6 | 合計 | 2.7 | 合計 | 5.4 |
7 情報の発表状況
5月1日以降に発表した緊急火山情報及び臨時火山情報は次のとおりです。また火山観測情報は,8月31日までに251号を発表しています。
(1)緊急火山情報
この期間の緊急火山情報の発表はありません。
(2)臨時火山情報
平成6年 5月 3日04時05分 第11号 赤松谷方向への火砕流頻発
平成6年 5月12日21時10分 第12号 龍の馬湯方向への火砕流頻発
平成6年 6月 3日17時35分 第13号 火山噴火予知連絡会の統一見解
平成6年 7月12日10時40分 第14号 第13溶岩ドームの出現確認
平成6年 8月16日01時40分 第15号 赤松谷及び龍の馬場方向への火砕流多発
平成6年 8月24日21時05分 第16号 龍の馬場方向への火砕流多発
平成6年 8月25日09時30分 第17号 龍の馬場方向への火砕流多発