1 概 況
全体的に火砕流の発生が少ない状況が続いていますが,時折継続時間の長い火砕流も発生しています。また,地震の増加や地殻変動データの異常等も観測されており,火山活動は依然活発な状態が続いています。今後の火山活動,及び降雨時の土石流に対して注意してください。
2 火砕流
この期間の火砕流の発生状況は第1表,第1図,第2図,第3図及び第4図のとおりです。
1月上旬から中旬にかけては溶岩ドーム南西部の隆起に伴い主に火口南西側の龍の馬場方向の崩落が発生しました。1月20日3時26分には震動の継続時間が910秒の火砕流が龍の馬場から赤松谷へ流下し,その先端は火口から1.5キロメートル付近まで達して先端では流木が燃えているのが確認されました。1月下旬から2月上旬にかけては,第12溶岩ドームの出現に伴い火口南東側の赤松谷方向への崩落が頻繁に起こりました。2月3日13時48分には震動の継続時間が890秒の火砕流が,第12溶岩ドーム南東部付近から発生しました。この火砕流は赤松谷方向へ流下し,火口から3.5キロメートル付近まで達しました。
2月6日15時01分及び15時05分には震動の継続時間がそれぞれ30秒と60秒の火砕流が,初めて火口北北西側の三会川方向へ流下し,0.5キロメートル付近まで達しました。このころから溶岩ドーム北西部での隆起が観測されるようになり,3月から4月にかけての崩落は主に三会川方向で発生しました。3月19日03時20分には継続時間が220秒の震動を含め三会川方向への火砕流が頻発し,後日の機上観測により,火口から約1.8キロメートル付近まで達しているのを確認しました。また,4月25日23時40分には継続時間が110秒の火砕流が三会川方向へ流下し2キロメートル付近まで達しました。
5月に入り,三会川方向への崩落は減少しましたが,上旬には主に火口南東側の赤松谷方向へ崩落し,中旬以降は火口南西側の龍の馬場方向へ崩落しました。下旬に入り火砕流の発生回数は減少しました。
月 | 日 | 発生時間 | 継続秒 | 流下方向 | 到達距離(km) | 備 考 |
---|---|---|---|---|---|---|
1 | 20 | 03:26 | 910 | 龍の馬場から赤松谷 | 1.5 | 流木燃える |
1 | 31 | 09:44 | 210 | 赤松谷 | 2.5 | |
2 | 2 | 22:57 | 480 | 赤松谷 | 3.0 | |
2 | 2 | 23:07 | 250 | 不明 | 不明 | |
2 | 2 | 23:13 | 340 | 不明 | 不明 | |
2 | 3 | 13:40 | 470 | 赤松谷 | 3.0 | |
2 | 3 | 13:48 | 890 | 赤松谷 | 3.5 | |
2 | 3 | 14:12 | 250 | 不明 | 不明 | |
3 | 19 | 03:20 | 220 | 三会川 | 1.8 | |
5 | 12 | 16:13 | 230 | 龍の馬場から赤松谷 | 1.0 |
第2図 火砕流と思われる震動波形の発生状況(1994年1月以降)
第3図 方向別火砕流の発生状況(1994年1月以降)
第4図 各月の火砕流の発生方向分布
3 震動観測
この期間の地震・微動・火砕流と思われる震動波形の発生状況の推移は第2表,及び第6図,第7図,第8図のとおりです。また,この期間の地震の震源の分布は第5図のとおりです。
12月15日から発生している溶岩ドーム付近を震源とする有感地震は1月5日まで続きました。1月に入ってこの期間に発生した有感地震は27個でした。その後地震の振幅は小さくなり,発生回数も減少して1日40個前後で推移していましたが,2月下旬から再び増加しはじめ,3月上旬にかけて1日100回から200回のペースで発生しました。3月中旬には一時回数は減少しましたが,3月下旬から再び増加し,1日200回を上回るペースで発生し,4月8日ころをピークに比較的振幅の大きな地震も含まれるようになりました。これらの地震のマグニチュードは大きなもので2.0程度で,昨年12月から今年1月にかけて発生したもの(最大マグニチュード3.1)ほど大きくなく,有感地震には至りませんでした。これらの地震は4月中旬には一時減少しましたが,月末には再び一時増加しました。5月に入り,地震の発生回数は,多いときには100回を超え,少ないときには40回程度となるなど,消長を繰り返しました。
第2表 月別地震・微動・火砕流と思われる震動波形数
月 | 有感地震 回 数 | 無感地震 回 数 | 総 地 震 回 数 | 微動回数 | 火 砕 流 震動回数 |
---|---|---|---|---|---|
1月 | 27 | 1836 | 1863 | 504 | 75 |
2月 | 0 | 1724 | 1724 | 300 | 80 |
3月 | 0 | 5110 | 5110 | 104 | 10 |
4月 | 0 | 4606 | 4606 | 154 | 16 |
合計 | 27 | 13276 | 13303 | 1062 | 181 |
第6図 日別地震回数の推移(1994年1月以降)
第7図 1993年12月からの地震の振幅の変化
第8図 微動の発生状況(1994年1月以降)
4 現地観測
(1) 機上観測
・1月26日
雲のためドームの様子は分かりませんでしたが,溶岩ドーム北側より北東方向へ約1キロメートル程の比較的新しい崩落跡がありました。その他の方向では比較的新しい崩落の跡は見られませんでした。龍の馬場の下の赤松谷上流で1月20日の火砕流の跡が白く乾いており,依然高温を保っている様子でした。
・2月8日
第12溶岩ドームは少し赤茶けたブロック状で,南東部には灰色の直径約50メートル程度の塊が露出していました。第12溶岩ドームの下の南東斜面には2月3日13時30分からの一連の火砕流によりガリー(溝)が形成されており,ここから新しい堆積物が,赤松谷方向へ,貝野岳付近の約3.5キロメートル付近まで達していました。
溶岩ドーム北西斜面に50メートルから100メートルの剥離した部分があり,この部分から三会川方向へ新しい堆積物が分布して,火口から0.5キロメートル付近まで達していました。
第11溶岩ドームは全体が赤茶けており,北から北東側の不安定ブロックからの崩落による新しい堆積物が火口北東側のおしが谷方向へ分布しており,その先端は約1キロメートル付近まで達していました。
水無川方向には新しい堆積物の分布はなく,龍の馬場方向も前回と大きな変化はありませんでした。
・2月22日
第12溶岩ドームでは新しい溶岩の湧き出しは確認できませんでした。第11溶岩ドームの北東斜面は垂直に切り立っており不安定な状態でした。第10溶岩ドームは全体的に隆起しており,中でも第12溶岩ドームの西側部分で隆起が顕著でした。しかし,この隆起部にはフレッシュな溶岩の湧き出しは確認できませんでした。
堆積物の状況は,火口北東側のおしが谷方向及び南東側の赤松谷方向へ約0.5キロメートル程度の新しい堆積物が分布していましたが,その他の方向への新しい堆積物はありませんでした。
・3月9日
山項付近は雲が厚く,第12溶岩ドーム及び第10溶岩ドームの状況は不明でした。第11溶岩ドームの北東側は垂直に切り立って依然不安定な状態でした。第11溶岩ドーム北東側には新しい溶岩の堆積物があり,火口から0.5キロメートル付近まで達していました。
第9図:3月22日機上観測スケッチ |
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(2) 温泉観測
雲仙地獄,小浜温泉の現地観測を実施しました。主な地点の観測結果は第3表のとおりで,特に大きな変化はありませんでした。
月 日 | 小 地 獄 | 大叫喚地獄 | 清七 地獄 | お糸 地獄 | |
---|---|---|---|---|---|
泉 温 | 2/18 | 67℃ | 93℃ | 92℃ | 93℃ |
3/ 3 | 66 | 91 | 93 | 92 | |
4/14 | 62 | 86 | 90 | 91 | |
5/13 | 68 | 90 | 93 | 92 | |
噴 気 温 | 2/18 | 91℃ | 97℃ | 97℃ | 97℃ |
3/ 3 | 91 | 97 | 97 | 97 | |
4/14 | 96 | 97 | 96 | 97 | |
5/13 | 91 | 97 | 97 | 97 | |
地 温 | 2/18 | 97℃ | 95℃ | 98℃ | 98℃ |
3/ 3 | 95 | 96 | 98 | 97 | |
4/14 | 96 | 98 | 98 | 98 | |
5/13 | 97 | 95 | 96 | 96 | |
P H | 2/18 | 2.3 | 1.8 | 2.1 | 2.4 |
3/ 3 | 2.4 | 2.3 | 2.1 | 2.5 | |
4/14 | 3.2 | 1.7 | 2.2 | 2.2 | |
5/13 | 2.2 | 1.9 | 5.1 | 2.3 |
月 日 | 2/18 | 3/ 3 | 4/14 | 5/13 |
---|---|---|---|---|
水面までの深さ | 6.7 | 6.7 | 7.3 | 7.4 |
5 遠望観測
(1) 遠望観測
1月から5月にかけて雲仙岳測候所が行った遠望観測による噴煙高度の状況は第10図のとおりでした。1月下旬から2月上旬にかけて第12溶岩ドームからの崩落による噴煙が高く上がっており,2月3日13時38分の震動の継続時間が890秒の火砕流による噴煙は高さ2000メートルまで上がりました。
第10-1図 噴煙高(定時観測分)
第10-2図 噴煙高(火砕流・崩落による噴煙)
第11-1図 セオドライト観測による溶岩ドームの動き
(1994/1/5-1/8:仁田峠第2展望台より)
第11-2図 セオドライト観測による溶岩ドームの動き
(1994/2/18-2/22:仁田峠第2展望台より)
第11-3図 セオドライト観測による溶岩ドームの動き
(1994/5/9-5/10:仁田峠第2展望台より)
第12-1図 溶岩ドームの稜線変化(1993/12/30-1994/2/6:仁田峠第2展望台より)
第12-2図 溶岩ドームの稜線変化(1994/2/10-1994/5/27:仁田峠第2展望台より)
第13図 溶岩ドームの標高変化(1993/12/7-1994/5/27:仁田峠第2展望所より)
6 降灰観測
この期間の雲仙岳測候所における降灰量の観測状況は第6表のとおりです。
1月 | 2月 | 3月 | 4月 | 5月 | |||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
日 | 降灰量 | 日 | 降灰量 | 日 | 降灰量 | 日 | 降灰量 | 日 | 降灰量 |
31 | 0.0 | 3 | 0.0 | 9 | 0.0 | 10 | 0.0 | 13 | 20.7 |
6 | 0.0 | 13 | 0.0 | 14 | 0.0 | 14 | 0.0 | ||
19 | 0.0 | 19 | 0.0 | 30 | 0.0 | ||||
23 | 0.0 | 26 | 5.7 | ||||||
27 | 0.0 | ||||||||
合計 | 0.0 | 合計 | 0.0 | 合計 | 0.0 | 合計 | 5.7 | 合計 | 20.7 |
7 情報の発表状況
1月1日以降に発表した緊急火山情報及び臨時火山情報は次のとおりです。また火山観測情報は,5月30日までに156号を発表しています。
(1) 緊急火山情報
この期間の緊急火山情報の発表はありません。
(2) 臨時火山情報
平成6年 1月15日11時50分 第 1号 第12溶岩ドームの出現
平成6年 1月20日03時55分 第 2号 震動の継続時間が910秒火砕流,龍の馬場方向へ流下
平成6年 1月30日14時15分 第 3号赤松谷方向への火砕流頻発
平成6年 1月31日10時00分 第 4号震動の継続時間が210秒の火砕流,赤松谷方向へ流下,到達距離2.5km
平成6年 2月 2日23時25分 第 5号震動の継続時間が480秒の火砕流,赤松谷方向へ流下,到達距離3.0km
平成6年 2月 3日13時55分 第 6号震動の継続時間が470秒の火砕流,赤松谷方向へ流下,到達距離3.0km
平成6年 2月 6日15時35分 第 7号三会川方向への火砕流
平成6年 2月 7日17時45分 第 8号火山噴火予知連絡会の統一見解
平成6年 3月 8日17時10分 第 9号普賢岳北方斜面で地殻変動
平成6年 3月19日03時45分 第10号震動の継続時間が220秒の火砕流,三会川方向へ流下
平成6年 5月 3日04時05分 第11号赤松谷方向への火砕流頻発
平成6年 5月12日21時10分 第12号龍の馬場方向への火砕流頻発