定期火山情報

第1号

平成6年1月14日10時00分
雲仙岳測候所発表
火山名:雲仙岳

 

1 概 況
 平成5年9月以降も雲仙・普賢岳の火山活動は引き続き活発な状態が続いています。
 9月以降火砕流の発生は減少していますが,11月に入り第11ドーム西側を中心に隆起が観測されており,ドーム周辺で山体が膨張する傾向の地殻変動が観測されています。また,11月下旬からは,普賢岳山体を震源とする地震が頻発しており,12月中旬ころからは雲仙岳測候所で有感となる地震も発生しています。
 9月:
 火砕流は1日あたり5回前後で発生し,ひと月で138回の震動を観測しました。これらは,主におしが谷方向へ流下し,水無川方向及び赤松谷方向へも流下しました。火山性地震は,1日あたり20〜70回程度で推移し,ひと月で1032回の火山性地震を観測しました。
 第11溶岩ドームは依然成長を続け,機上覿測では比較的新しい溶岩の噴出が確認されるとともに,月初めには640メートル程度であったドームの長さは月末には750メートルとなりました。
 10月:
 火砕流は1日に0回〜6回で推移し,ひと月で80回の震動を観測しました。これらは,主におしが谷方向へ流下し,一部水無川,赤松谷方向へも流下しました。
 また,第11溶岩ドーム北側と第10溶岩ドームとの境界付近からの崩落も度々観測され,おしが谷の一番北よりのコースをとおり,中尾川方向へ流下するものも観測されました。
 火山性地震は,1日あたり,20〜60回程度で推移し,ひと月で1101回の火山性地震を観測しました。
 第11溶岩ドームでは依然溶岩の噴出は続きましたが,第11溶岩ドーム全体の長さはあまり伸びず,一方溶岩ドームの頂部は不安定な状態になりました。
 11月:
 火砕流の発生はさらに減少し,ひと月で32回の震動を観測しました。
 火山性地震は中旬までは1日当たり20回前後で推移していましたが,月末から発生回数が増加し,11月30日には1日で414回の地震を観測しました。このひと月で2661回の地震を観測しました。12月に入ってもこの増加傾向は続いており,15日からは雲仙岳測候所で有感となる地震も観測されています。
 機上観測によると第11溶岩ドーム北西部付近で旧ドームの隆起が観測されました。
また,下旬には通産省工業技術院地質調査所が行っている光波測距によると,溶岩ドーム付近の地殻変動により,仁田峠付近の測点と溶岩ドーム南西付近の距離の縮みが観測されました。
 12月:
 火砕流の発生は先月に引き続き少なく,ひと月に34回でした。
 火山性地震は先月下旬より本月中旬ころまで増加傾向が続き,13日には1336回の火山性地震を観測しました。それ以降も多い状態が続き,ひと月の火山性地震の発生回数は25340回となりました。また,15日からは溶岩ドーム付近を震源とする,比較的規模の大きな地震により,雲仙岳測候所で震度Tとなる有感地震が観測されるようになりました。この有感地震は,1日に10回前後発生し,ひと月で170回の有感地震(すべて震度T)を観測しました。
 また,通産省工業技術院地質調査所が行っている光波測距によると,溶岩ドーム南西部付近の距離の縮みは依然続きました。

 火砕流の発生は減少しており,また地震の回数も一時期に比べると減少していますが,溶岩ドームの隆起は依然続いており,火山活動は依然活発な状態が続いています。今後の火山活動,及び降雨時の土石流に対して注意してください。

2 火砕流
 火砕流の発生状況は第1表,第1図,第2図および第3図のとおりです。
 9月以降火砕流の発生は減少し,11月には1日あたり1〜2回程度となり,12月 に入っても依然少ない状態が続きました。また,第1表に示すように比較的規模の大きな火砕流も少なくなっています。
 9月から主におしが谷方向に発生した火砕流は,10月中旬ころからは第11溶岩ドームのより北東側および北側への押し出しにより,おしが谷のより北側を流下するよ うになり,これらのうち幾つかの比較的流走距離の長い火砕流は中尾川上流部へ流下しました。また,これらの崩落によりドーム北側の飯洞岩付近は溶岩塊で埋まり,その一部はドームの北東側および北西側でカルデラの縁を越えているのを確認しました。
 また,11月下旬からは第11溶岩ドーム湧き出し口西側の隆起により,ドーム西側から南西側の普賢神社および龍の馬場方向への崩落が観測されるようになり,さらに12月下旬には,溶岩ドーム付近を震源とする比較的規模の大きな地震による溶岩ドーム南東から南西にかけての崩落が,頻繁に観測されるようになりました。

第1表 最近の主な火砕流(1993年9月−1993年12月)
(震動波形の継続時間180秒以上,または水平到達距離3km以上)
発生時間継続秒流下方向到達距離備  考
20:21100おしが谷>3.0km 
1614:19180おしが谷2.5km中尾川上流


第1図 火砕流と思われる震動波形の発生状況(1991年5月以降)

第2図 火砕流と思われる震動波形の発生状況(1993年9月以降)

第3図 方向別火砕流の発生状況(1993年9月以降)

3 震動観測
 この期間の地震・微動・火砕流と思われる震動波形の発生状況の維移は第2表,及び第5図,第6図のとおりです。また,この期間の地震の震源の分布は第4図のとおりです。火山性地震は,8月下旬から比較的少ない状況が続いていましたが,11月の下旬から増加し,12月には25340回の火山性地震を観測しており,12月13日には1336回の地震を観測しました。11月下旬から頻発している地震は,1991年5月のドーム出現時に見られた短周期地震と同種の地震です。
 9月から11月にかけては,体に感じる火山性地震は観測されませんでしたが,12月15日以降雲仙岳測候所で有感となる火山性地震が発生しており,12月ひと月で170個の有感地震(すべて震度T)を観測しています。これらの地震の震源は溶岩ドーム付近で,その規模(マグニチュード)はもっとも大きなもので2.9でした。12月に入って観測された有感地震の規模の分布は第7図のとおりです。
 しかし,12月末になると,地震の回数も減少傾向を示し,また,有感地震も1月6日以降観測されなくなりました。


第4図 1993年9月−12月の島原半島付近の地震の震源分布
第2表 月別地震・微動・火砕流と思われる震動波形数
有感地震
回  数
無感地震
回  数
総 地 震
回  数
微動回数火 砕 流
震動回数
9月010321032519138
10月01101110129480
11月02661266122632
12月170251702534058134
合計17029964301341620284


第5図 日別地震回数の推移(1993年9月以降)

第6図 日別微動回数の推移(1993年9月以降)

第7図 1993年12月からの有感地震のマグニチュードの変化

4 現地観測
(1) 機上観測
 ・9月7日
 第11溶岩ドームの湧き出し口付近は,鮮やかな灰色のブロックになっており,新鮮な溶岩が活発に湧き出している様子でした。また,第10溶岩ドームは大きなブロック状の溶岩がそそり立っており,全体から青白色のガスが出ていました。
 ・9月21日
 第11溶岩ドーム項部付近の湧き出し口付近は,鮮やかな灰色のブロックになっており,新鮮な溶岩が活発に湧き出している様子でした。この湧き出した溶岩は北東側よりおしが谷方向へ崩落している跡が見られました。また,古い北東側の第11溶岩ドームには亀裂が入っていました。東側の新しい第11溶岩ドームは上部で厚みを増して成長しており,その周囲には崩落による溝が形成されていました。第10溶岩ドームはブロック状の溶岩がそそり立っており,北東側の第11溶岩ドーム湧き出し口付近で切り立った状態が目立つようになりました。
 新しい火砕流堆積物は,おしが谷方向へは約2.5キロメートル付近まで,赤松谷方向へは約1.0キロメートル付近まで達していました。水無川方向への新しい火砕流堆積物は確認されませんでした。
 ・10月12日
 噴煙と雲のためドームの状況は確認できませんでした。新しい火砕流堆積物は,おしが谷方向へは約2.5キロメートル付近まで達し,水無川方向へは約1.5キロメートルまで達していました。また,溶岩ドーム西側からは白色の噴煙が勢いよく出ていました。
 ・10月26日
 第11溶岩ドームの湧き出し口付近は,灰色で放射状の割れ目のような構造をしていました。この湧き出し口の北側付近は比較的頻繁に崩落を繰り返しており,ドーム北東側は切り立って不安定な状態となっていました。北東側の古い溶岩ドームは周辺からの崩落により,削り取られて小さくなっていました。第10溶岩ドーム北側のブロック状の突起は大部分崩れ落ちており,北側の斜面から飯洞岩にかけては崩落物により,赤褐色になっていました。また,この飯洞岩のテラス(通称北テラス)は,第10溶岩ドームからの崩落により堆積物が増えたことと,飯洞岩東側のカルデラ壁が削れて低くなったために一部の崩落物がカルデラ壁の外側へ落ちていました。
 新しい火砕流堆積物は,赤松谷および水無川方向へは約1キロメートルまで達していました。おしが谷方向へは垂木台地に沿って,約2キロメートル付近まで達していました。さらに前述の第11溶岩ドーム湧き出し北側の不安定部分からの崩落は,さらに北側をまわるルートを通っており,その先端は中尾川上流の麻畑の下の谷の部分(北東側約2.5キロメートル付近)まで達していました。
 ・11月10日
 第11溶岩ドームの湧き出し口付近は灰色で依然放射状の割れ目のような構造をしていました。これらのうち北側に延びる割れ目の先端は北東斜面の崖にのぞいており,切り立って不安定な状態でした。これらの一部のブロックには多数のクラックが入っており,絶えず小崩落を繰り返していました。第10溶岩ドームは全体に大きく盛り上がり,特に北から北西側でブロック状の隆起が目立ちました。また,北東から北斜面では小さな崩落を繰り返しており,一部の崩落物が,飯洞岩西側から古焼溶岩の方へ落ちていました。
 新しい火砕流堆積物は全方向とも1キロメートル程度であり,主な崩落は,前述の第11溶岩ドーム北側の不安定部分から起っていました。
 ・11月24日
 雲および噴煙のためドームの状況は北側の一部分しか確認できませんでした。確認できた範囲では,第11溶岩ドームは大きな変化はなく,依然として北東斜面にせり出し不安定な状態でした。また,第10溶岩ドームは北西部で隆起が確認されました。
 新しい火砕流堆積物の状況は,おしが谷方向では細く3筋に約1キロメートル付近まで達していました。また,水無川方向では細く1筋に約1キロメートル付近まで達していました。赤松谷方向およびドーム北側の飯洞岩付近には新しい崩落の後は確認できませんでした。
 ・12月7日
 第11溶岩ドームには大きな変化はありませんでしたが,上部からの崩落の流路と見られるガリーが発達していました。第10溶岩ドームは中央部で北西−南東方向に尾根状の隆起があり,中央部がもっとも高くなっていました。
 おしが谷方向,水無川方向,赤松谷方向には新しい火砕流堆積物は見られませんでした。ドーム北側の飯洞岩付近は,溶岩の崩落による堆積部で埋まっていましたが,古焼溶岩方向への新しい崩落跡は確認されませんでした。また,龍の馬場付近は第10ドームからの南西側への崩落による堆積物で埋まってきていました。
 ・12月24日
 第11溶岩ドームには大きな変化はありませんでした。第10溶岩ドームの頂上部には突出した角状の溶岩塊がいくつも見られました。また,この第10溶岩ドームからは南西から南東方向にかけて崩落しており,この方向への溶岩の堆積が進んでいました。
(2) 温泉観測
 雲仙地獄,小浜温泉の現地観測を実施しました。主な地点の観測結果は第3表のとおりで,特に大きな変化はありませんでした。

第3表 温泉地獄観測表
月 日小 地 獄大叫喚地獄清七 地獄お糸 地獄


9/ 649℃89℃96℃91℃
10/ 663949295
11/ 872949094
12/ 367939593
1/ 768929693


9/ 694℃97℃96℃95℃
10/ 696979797
11/ 896979797
12/ 395979796
1/ 790979797


9/ 678℃90℃97℃97℃
10/ 696979897
11/ 896979798
12/ 395979896
1/ 792909797


9/ 62.72.72.82.3
10/ 62.61.91.82.4
11/ 82.51.61.82.3
12/ 32.41.62.02.2
1/ 72.31.71.52.3

(3)井戸の水位
 小浜町山領における井戸の水位観測の結果は第4表のとおりでした。
第4表 井戸の水位 単位:メートル
月  日 9/ 610/ 611/ 812/ 4 1/ 7
水面までの深さ3.94.85.65.96.4

5 遠望観測
(1) 遠望観測
 9月以降雲仙岳測候所が行った遠望観測で,日最高噴煙が1000メートル以上の噴煙を観測したのは第5表のとおりでした。これには火砕流による噴煙も含まれます。

第5表 日最高噴煙高度(1,000メートル以上) 単位:メートル
9月10月11月12月
噴煙高噴煙高噴煙高噴煙高
14100091200 なし なし
161700101200    
251000201000    

(2) セオドライト(測角儀)による観測
 9月から12月にかけて観測したセオドライト(測角儀)を用いたドームの大きさ及び変化量の観測の主な結果は,第8図のとおりです。
 これによると、9月から10月にかけて第11溶岩ドームの全長は成長していますが、それ以降は大きな成長をしていません。11月以降第10ドームでの隆起が続いています。
 なお,図中の矢印は移動方向と量であり,単位はメートルです。

第8−1図 9月1日布津町俵石からのセオドライト観測

第8−2図 10月2日布津町俵石からのセオドライト観測

第8−3図 10月22日島原市礫石原からのセオドライト観測

第8−4図 12月9日小浜町仁田峠第2展望台からのセオドライト観測

第8−5図 12月20日小浜町仁田峠第2展望台からのセオドライト観測

(3) 第11溶岩ドームの成長の状況
 この期間の遠望観測による第11溶岩ドームの成長の状況は第9図,第10図のとおりです。第11溶岩ドームは10月以降その全長に大きな変化はありませんが,ドーム頂部では依然隆起と崩落を繰り返しています。11月ころからは隆起の中心は第11溶岩ドーム頂部の西側に移っており,隆起量も小さくなっていますが,依然不安定な状態にあります。


第9図:大野木場からの溶岩ドームの状況   第10図:礫石原からの溶岩ドームの状況

6 降灰観測
 この期間の雲仙岳測候所における降灰量の観測状況は第6表のとおりです。

第6表 日降灰量(前日の9時から当日の9時までの1m2当たりの降灰の重さ)
単位:g/m2

9月10月11月12月
降灰量降灰量降灰量降灰量
10.020.021.2300.0
25.430.9190.0  
40.040.0    
57.550.0    
65.768.1    
719.572.1    
81.891.5    
90.0110.0    
100.0120.0    
110.0150.0    
120.0270.0    
150.0      
196.6      
2113.5      
2210.2      
230.0      
240.0      
250.0      
260.0      
270.0      
280.0      
合計70.2合計12.6合計1.2合計0.0

7 地震回数等の順位について
 1990年11月17日の噴火以降1993年12月31日までの地震回数等の主なデータの順位は第7表から第14表のとおりです。
 なおここで用いた地震・微動の回数データは,1992年3月3T日までについては再度震動記録等の見直しを行なった数値であり,また,1992年4月1日以降については速報値を用いており,後日変更される事があります。

第7表 月別地震回数の順位
順位地震回数年  月
1253401993年12月
2129461993年8月
365311992年2月
459471992年9月
557181992年3月
 
第8表 月別有感地震回数の順位
順位有感地震回数年  月
11701993年12月
2461991年2月
3271991年4月
4211991年3月
5161991年5月
 
第9表 月別火砕流回数の順位
順位火砕流回数年  月
15211991年9月
25041992年3月
34921991年6月
44391991年10月
53951992年9月
第10表 日別地震回数順位
順位地震回数日  付
126041993/08/07
215051993/08/08
315031993/08/06
413361993/12/13
513021993/12/12
 
第11表 日別有感地震回数順位
順位有感地震回数日  付
1281991/02/27
2151993/12/28
3141993/12/24
3141993/12/27
5131993/12/26
 
第12表 日別火砕流回数順位
順位火砕流回数日  付
1481991/06/03
2441992/03/23
3391993/04/28
4361992/09/25
4361991/06/19

第13表 火砕流継続秒数順位
順位継続秒数発生年月日時刻
115001991/06/08 19:51
29601991/06/03 23:20
36701991/09/15 18:54
43901993/01/15 19:31
53601991/09/15 18:42
 
第14表 日降灰量順位
順位日降灰量(g/m2)日  付
1575.71993/07/20
2508.81992/06/15
3506.51991/08/27
4395.91992/06/18
5394.71991/09/16


8 情報の発表状況
 9月1日以降に発表した緊急火山情報及び臨時火山情報は次のとおりです。また火山観測情報は,12月31日までに249号を発表しています。
(1) 緊急火山情報
 この期間の緊急火山情報の発表はありません。
(2) 臨時火山情報
 平成5年10月15日18時00分 第43号 火山噴火予知連絡会の統一見解
 平成5年11月22日16時30分 第44号 火山性地震頻発、光波測距量の値に縮みが観測された。
 平成5年12月 2日15時30分 第45号 南西方向への崩落
 平成5年12月14日16時45分 第46号 地震頻発、仁田峠現地有感
 平成5年12月24日16時40分 第47号 地震頻発、有感地震増加