1 概 況
火砕流の発生は減少しており,また地震の回数も一時期に比べると減少していますが,溶岩ドームの隆起は依然続いており,火山活動は依然活発な状態が続いています。今後の火山活動,及び降雨時の土石流に対して注意してください。
2 火砕流
火砕流の発生状況は第1表,第1図,第2図および第3図のとおりです。
9月以降火砕流の発生は減少し,11月には1日あたり1〜2回程度となり,12月 に入っても依然少ない状態が続きました。また,第1表に示すように比較的規模の大きな火砕流も少なくなっています。
9月から主におしが谷方向に発生した火砕流は,10月中旬ころからは第11溶岩ドームのより北東側および北側への押し出しにより,おしが谷のより北側を流下するよ
うになり,これらのうち幾つかの比較的流走距離の長い火砕流は中尾川上流部へ流下しました。また,これらの崩落によりドーム北側の飯洞岩付近は溶岩塊で埋まり,その一部はドームの北東側および北西側でカルデラの縁を越えているのを確認しました。
また,11月下旬からは第11溶岩ドーム湧き出し口西側の隆起により,ドーム西側から南西側の普賢神社および龍の馬場方向への崩落が観測されるようになり,さらに12月下旬には,溶岩ドーム付近を震源とする比較的規模の大きな地震による溶岩ドーム南東から南西にかけての崩落が,頻繁に観測されるようになりました。
月 | 日 | 発生時間 | 継続秒 | 流下方向 | 到達距離 | 備 考 |
---|---|---|---|---|---|---|
9 | 9 | 20:21 | 100 | おしが谷 | >3.0km | |
9 | 16 | 14:19 | 180 | おしが谷 | 2.5km | 中尾川上流 |
3 震動観測
この期間の地震・微動・火砕流と思われる震動波形の発生状況の維移は第2表,及び第5図,第6図のとおりです。また,この期間の地震の震源の分布は第4図のとおりです。火山性地震は,8月下旬から比較的少ない状況が続いていましたが,11月の下旬から増加し,12月には25340回の火山性地震を観測しており,12月13日には1336回の地震を観測しました。11月下旬から頻発している地震は,1991年5月のドーム出現時に見られた短周期地震と同種の地震です。
9月から11月にかけては,体に感じる火山性地震は観測されませんでしたが,12月15日以降雲仙岳測候所で有感となる火山性地震が発生しており,12月ひと月で170個の有感地震(すべて震度T)を観測しています。これらの地震の震源は溶岩ドーム付近で,その規模(マグニチュード)はもっとも大きなもので2.9でした。12月に入って観測された有感地震の規模の分布は第7図のとおりです。
しかし,12月末になると,地震の回数も減少傾向を示し,また,有感地震も1月6日以降観測されなくなりました。
月 | 有感地震 回 数 | 無感地震 回 数 | 総 地 震 回 数 | 微動回数 | 火 砕 流 震動回数 |
---|---|---|---|---|---|
9月 | 0 | 1032 | 1032 | 519 | 138 |
10月 | 0 | 1101 | 1101 | 294 | 80 |
11月 | 0 | 2661 | 2661 | 226 | 32 |
12月 | 170 | 25170 | 25340 | 581 | 34 |
合計 | 170 | 29964 | 30134 | 1620 | 284 |
4 現地観測
(1) 機上観測
・9月7日
第11溶岩ドームの湧き出し口付近は,鮮やかな灰色のブロックになっており,新鮮な溶岩が活発に湧き出している様子でした。また,第10溶岩ドームは大きなブロック状の溶岩がそそり立っており,全体から青白色のガスが出ていました。
・9月21日
第11溶岩ドーム項部付近の湧き出し口付近は,鮮やかな灰色のブロックになっており,新鮮な溶岩が活発に湧き出している様子でした。この湧き出した溶岩は北東側よりおしが谷方向へ崩落している跡が見られました。また,古い北東側の第11溶岩ドームには亀裂が入っていました。東側の新しい第11溶岩ドームは上部で厚みを増して成長しており,その周囲には崩落による溝が形成されていました。第10溶岩ドームはブロック状の溶岩がそそり立っており,北東側の第11溶岩ドーム湧き出し口付近で切り立った状態が目立つようになりました。
新しい火砕流堆積物は,おしが谷方向へは約2.5キロメートル付近まで,赤松谷方向へは約1.0キロメートル付近まで達していました。水無川方向への新しい火砕流堆積物は確認されませんでした。
・10月12日
噴煙と雲のためドームの状況は確認できませんでした。新しい火砕流堆積物は,おしが谷方向へは約2.5キロメートル付近まで達し,水無川方向へは約1.5キロメートルまで達していました。また,溶岩ドーム西側からは白色の噴煙が勢いよく出ていました。
・10月26日
第11溶岩ドームの湧き出し口付近は,灰色で放射状の割れ目のような構造をしていました。この湧き出し口の北側付近は比較的頻繁に崩落を繰り返しており,ドーム北東側は切り立って不安定な状態となっていました。北東側の古い溶岩ドームは周辺からの崩落により,削り取られて小さくなっていました。第10溶岩ドーム北側のブロック状の突起は大部分崩れ落ちており,北側の斜面から飯洞岩にかけては崩落物により,赤褐色になっていました。また,この飯洞岩のテラス(通称北テラス)は,第10溶岩ドームからの崩落により堆積物が増えたことと,飯洞岩東側のカルデラ壁が削れて低くなったために一部の崩落物がカルデラ壁の外側へ落ちていました。
新しい火砕流堆積物は,赤松谷および水無川方向へは約1キロメートルまで達していました。おしが谷方向へは垂木台地に沿って,約2キロメートル付近まで達していました。さらに前述の第11溶岩ドーム湧き出し北側の不安定部分からの崩落は,さらに北側をまわるルートを通っており,その先端は中尾川上流の麻畑の下の谷の部分(北東側約2.5キロメートル付近)まで達していました。
・11月10日
第11溶岩ドームの湧き出し口付近は灰色で依然放射状の割れ目のような構造をしていました。これらのうち北側に延びる割れ目の先端は北東斜面の崖にのぞいており,切り立って不安定な状態でした。これらの一部のブロックには多数のクラックが入っており,絶えず小崩落を繰り返していました。第10溶岩ドームは全体に大きく盛り上がり,特に北から北西側でブロック状の隆起が目立ちました。また,北東から北斜面では小さな崩落を繰り返しており,一部の崩落物が,飯洞岩西側から古焼溶岩の方へ落ちていました。
新しい火砕流堆積物は全方向とも1キロメートル程度であり,主な崩落は,前述の第11溶岩ドーム北側の不安定部分から起っていました。
・11月24日
雲および噴煙のためドームの状況は北側の一部分しか確認できませんでした。確認できた範囲では,第11溶岩ドームは大きな変化はなく,依然として北東斜面にせり出し不安定な状態でした。また,第10溶岩ドームは北西部で隆起が確認されました。
新しい火砕流堆積物の状況は,おしが谷方向では細く3筋に約1キロメートル付近まで達していました。また,水無川方向では細く1筋に約1キロメートル付近まで達していました。赤松谷方向およびドーム北側の飯洞岩付近には新しい崩落の後は確認できませんでした。
・12月7日
第11溶岩ドームには大きな変化はありませんでしたが,上部からの崩落の流路と見られるガリーが発達していました。第10溶岩ドームは中央部で北西−南東方向に尾根状の隆起があり,中央部がもっとも高くなっていました。
おしが谷方向,水無川方向,赤松谷方向には新しい火砕流堆積物は見られませんでした。ドーム北側の飯洞岩付近は,溶岩の崩落による堆積部で埋まっていましたが,古焼溶岩方向への新しい崩落跡は確認されませんでした。また,龍の馬場付近は第10ドームからの南西側への崩落による堆積物で埋まってきていました。
・12月24日
第11溶岩ドームには大きな変化はありませんでした。第10溶岩ドームの頂上部には突出した角状の溶岩塊がいくつも見られました。また,この第10溶岩ドームからは南西から南東方向にかけて崩落しており,この方向への溶岩の堆積が進んでいました。
(2) 温泉観測
雲仙地獄,小浜温泉の現地観測を実施しました。主な地点の観測結果は第3表のとおりで,特に大きな変化はありませんでした。
月 日 | 小 地 獄 | 大叫喚地獄 | 清七 地獄 | お糸 地獄 | |
---|---|---|---|---|---|
泉 温 | 9/ 6 | 49℃ | 89℃ | 96℃ | 91℃ |
10/ 6 | 63 | 94 | 92 | 95 | |
11/ 8 | 72 | 94 | 90 | 94 | |
12/ 3 | 67 | 93 | 95 | 93 | |
1/ 7 | 68 | 92 | 96 | 93 | |
噴 気 温 | 9/ 6 | 94℃ | 97℃ | 96℃ | 95℃ |
10/ 6 | 96 | 97 | 97 | 97 | |
11/ 8 | 96 | 97 | 97 | 97 | |
12/ 3 | 95 | 97 | 97 | 96 | |
1/ 7 | 90 | 97 | 97 | 97 | |
地 温 | 9/ 6 | 78℃ | 90℃ | 97℃ | 97℃ |
10/ 6 | 96 | 97 | 98 | 97 | |
11/ 8 | 96 | 97 | 97 | 98 | |
12/ 3 | 95 | 97 | 98 | 96 | |
1/ 7 | 92 | 90 | 97 | 97 | |
P H | 9/ 6 | 2.7 | 2.7 | 2.8 | 2.3 |
10/ 6 | 2.6 | 1.9 | 1.8 | 2.4 | |
11/ 8 | 2.5 | 1.6 | 1.8 | 2.3 | |
12/ 3 | 2.4 | 1.6 | 2.0 | 2.2 | |
1/ 7 | 2.3 | 1.7 | 1.5 | 2.3 |
月 日 | 9/ 6 | 10/ 6 | 11/ 8 | 12/ 4 | 1/ 7 |
---|---|---|---|---|---|
水面までの深さ | 3.9 | 4.8 | 5.6 | 5.9 | 6.4 |
5 遠望観測
(1) 遠望観測
9月以降雲仙岳測候所が行った遠望観測で,日最高噴煙が1000メートル以上の噴煙を観測したのは第5表のとおりでした。これには火砕流による噴煙も含まれます。
9月 | 10月 | 11月 | 12月 | ||||
---|---|---|---|---|---|---|---|
日 | 噴煙高 | 日 | 噴煙高 | 日 | 噴煙高 | 日 | 噴煙高 |
14 | 1000 | 9 | 1200 | なし | なし | ||
16 | 1700 | 10 | 1200 | ||||
25 | 1000 | 20 | 1000 |
(3) 第11溶岩ドームの成長の状況
この期間の遠望観測による第11溶岩ドームの成長の状況は第9図,第10図のとおりです。第11溶岩ドームは10月以降その全長に大きな変化はありませんが,ドーム頂部では依然隆起と崩落を繰り返しています。11月ころからは隆起の中心は第11溶岩ドーム頂部の西側に移っており,隆起量も小さくなっていますが,依然不安定な状態にあります。
6 降灰観測
この期間の雲仙岳測候所における降灰量の観測状況は第6表のとおりです。
9月 | 10月 | 11月 | 12月 | ||||
---|---|---|---|---|---|---|---|
日 | 降灰量 | 日 | 降灰量 | 日 | 降灰量 | 日 | 降灰量 |
1 | 0.0 | 2 | 0.0 | 2 | 1.2 | 30 | 0.0 |
2 | 5.4 | 3 | 0.9 | 19 | 0.0 | ||
4 | 0.0 | 4 | 0.0 | ||||
5 | 7.5 | 5 | 0.0 | ||||
6 | 5.7 | 6 | 8.1 | ||||
7 | 19.5 | 7 | 2.1 | ||||
8 | 1.8 | 9 | 1.5 | ||||
9 | 0.0 | 11 | 0.0 | ||||
10 | 0.0 | 12 | 0.0 | ||||
11 | 0.0 | 15 | 0.0 | ||||
12 | 0.0 | 27 | 0.0 | ||||
15 | 0.0 | ||||||
19 | 6.6 | ||||||
21 | 13.5 | ||||||
22 | 10.2 | ||||||
23 | 0.0 | ||||||
24 | 0.0 | ||||||
25 | 0.0 | ||||||
26 | 0.0 | ||||||
27 | 0.0 | ||||||
28 | 0.0 | ||||||
合計 | 70.2 | 合計 | 12.6 | 合計 | 1.2 | 合計 | 0.0 |
7 地震回数等の順位について
1990年11月17日の噴火以降1993年12月31日までの地震回数等の主なデータの順位は第7表から第14表のとおりです。
なおここで用いた地震・微動の回数データは,1992年3月3T日までについては再度震動記録等の見直しを行なった数値であり,また,1992年4月1日以降については速報値を用いており,後日変更される事があります。
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8 情報の発表状況
9月1日以降に発表した緊急火山情報及び臨時火山情報は次のとおりです。また火山観測情報は,12月31日までに249号を発表しています。
(1) 緊急火山情報
この期間の緊急火山情報の発表はありません。
(2) 臨時火山情報
平成5年10月15日18時00分 第43号 火山噴火予知連絡会の統一見解
平成5年11月22日16時30分 第44号 火山性地震頻発、光波測距量の値に縮みが観測された。
平成5年12月 2日15時30分 第45号 南西方向への崩落
平成5年12月14日16時45分 第46号 地震頻発、仁田峠現地有感
平成5年12月24日16時40分 第47号 地震頻発、有感地震増加