定期火山情報

第2号

平成5年4月14日10時00分
雲仙岳測候所発表
火山名:雲仙岳

 

1 概 況
 雲仙・普賢岳の火山活動は消長を繰り返しながらも引き続き活発で,1月・2月は火砕流の発生が少ない状況でしたが,3月に入り,火砕流の発生が増加しました。2月初旬及び3月中旬には新しいドーム(第10ドーム及び第11ドーム)の出現が確認されました。また,3月9日には到達距離が4キロメートルに達する流走距離の長い火砕流が発生しました。
 1月:
 全体的に火砕流の発生は少なく,1日に0回から2回程度で発生し,主に赤松谷方向及び水無川方向へ流下しました。しかし,15日には火砕流が頻発しました。火山性地震は1日当たり50回〜150回ぐらいで推移しました。2日20時56分には熊本県北西部を震源とする地震が発生し,雲仙岳で震度Tを観測しました。
 2月:
 2日には第5ドームの上部に第10ドームの出現が確認されました。火砕流の発生は,先月に引き続き少なく,1日0回から7回程度で推移しました。第10ドームは全方位的に成長し,これに伴い火砕流や崩落はこれまでの,おしが谷,水無川,赤松谷方向に加え,北側の鳩穴方向や,南西側の龍の馬場方向と,全方位的に発生しました。火山性地震は,2月にはいって減少し,1日10回前後で推移しました
 3月:
 17日には第5ドームの東側に第11ドームの出現が確認されました。2月に出現した第10ドームはその後も成長を続け,3月に入ると,その北東及び東側が崩落し,火砕流の発生が増加しました。また,第11ドームからも崩落し,火砕流は主に水無川及びおしが谷方向へ発生しました。また,これに伴い,1日当たりの火砕流の発生回数も多くなるとともに,流走距離の長い火砕流も発生するようになりました。3月9日16時42分には,おしが谷及び水無川方向へ流走距離の長い火砕流が発生し,火口から水平距離で4キロメートルの北上木場地区まで達しました。また,9日から16日にかけて火山性地震が増加し,3月14日には1日で492回の地震を観測しました。
 このように,火山活動は消長を繰り返しながらも依然活発な状態が続いています。溶岩の噴出は依然続いており,3月に入り,火砕流はその発生回数が多くなるとともに,その流走距離も長いものが発生しています。
 今後の火山活動,並びに降雨時の土石流に対して厳重に警戒して下さい。

2 火砕流
 火砕流と思われる震動波形の発生状況は第1,2図及び第3図に示すとおりで2月までは,先月に引き続きその発生回数は少ない状況で,1月,2月には火砕流と思われる震動波形を観測しない日もありました。しかし,1月15日には17時頃から20時頃にかけて,波形の継続時間が長い火砕流が頻発しました。
 3月に入ると,成長を続ける第10ドームの東側及び北東側は旧ドームを乗り越えて崩落を始めるとともに,3月17日には第11ドームの出現も確認され,水無川方向及びおしが谷方向への火砕流が頻繁に観測されるようになりました。3月9日16時42分には波形の継続時間が190秒の火砕流と思われる震動波形を観測し,これにともなう火砕流は,おしが谷方向及び水無川方向へ流下し,火口からの水平距離で約4キロメートルの島原市の北上木場地区に達しました。


第1図 火砕流と思われる震動波形の発生状況

第2図 火砕流と思われる震動波形の発生状況グラフ(1992年12月以降)

第3図 継続時間100秒以上の火砕流と思われる震動波形のグラフ

第1表 最近の主な火砕流
(震動波形の継続時間180秒以上,または水平到達距離3km以上)

発生時間継続秒方向距 離備  考
11517時09分250 SE 4合自衛隊観測
11517時25分230 SE 不明 
11519時25分300不明 不明 
11519時31分390不明 不明 
3916時42分190NE,E 4.0Km 
31216時39分180 E 3.5Km 
31617時08分130 E 3.5Km 
32223時15分180 E>2.5Km 
3280時29分180 E>2.5Km 
4110時28分150 E 3.0Km 
449時28分130 E 3.5Km 
4413時46分120 E 3.0Km 
4517時16分130 E 3.0Km 
4712時32分110 E 3.0Km 
4121時46分190 E>2.5Km 

3 震動観測
 この期間の地震・微動・火砕流と思われる震動波形の推移は第4図〜第7図,及び第2表のとおりです。
 1月の地震回数は,先月に引き続き,1日当たり,100回前後で推移しました。1月2日20時56分には普賢岳の東方約20キロメートルの熊本県北西部を震源とする地震が発生し,雲仙岳で震度Tを観測しました。
 2月上旬頃から,地震は1日当たり10回前後と,その発生回数は減りました。
 3月中旬には再び地震活動は活発となり,3月14日には1日492回の地震を観測しました。しかし,3月下旬には地震の回数も減り,1日当たり数十回のペースで推移しています。

第2表 月別地震・微動・火砕流と思われる震動波形数
有感地震
回  数
無感地震
回  数
総 地 震
回  数
微動回数火 砕 流
波形数
13146314718537
054254223644
029852985472171
合計166736674893252


第4図 地震回数の推移

第5図 微動回数の推移
>
第6図 地震回数の推移(1992年12月以降)

第7図 微動回数の推移(1992年12月以降)

4 現地観測
 (1) 機上観測
 ・1月12日
 第9ドームは赤茶けたブロック状でした。第5ドームの東及び北東側は切り立った斜面になっていました。比較的新しい火砕流堆積物は,赤松谷方向及び水無川方向へは約2キロメートル,おしが谷方向へは約1.5キロメートル流下していました。
 ・1月20日
 山頂部は雲に覆われていたため,ドームの状況は確認できませんでした。比較的新しい堆積物が,赤松谷及び水無川方向へ約2.5キロメートル流下していました。おしが谷方向へは約2.0キロメートル流下していました。また,南東側斜面にえぐられた跡がありました。
 ・2月3日
 第9ドーム付近には,1月15日の火砕流によると思われる筋状の流路がありました。第5ドームは,全体的に盛り上がった状態で突起状のブロックがありました。また,火砕流堆積物の状況は,水無川方向へ約2.5キロメートル付近まで達しており,赤松谷方向へは谷のごく上流のみに比較的新しい堆積物がありました。
 ・2月10日
 第10ドームは,暗い灰色で先端は切り立って不安定でした。第5,第9ドームは噴煙に覆われ確認できませんでした。その他のドームについては大きな変化はみられませんでした。第10ドームからの崩落物による堆積物が,鳩穴のすぐ南まで達していました。
 ・2月17日
 ドームは雲のため全体は確認できませんでしたが,第10ドームの頂部は花びら状になっており,上方へせり出していました。
 ・3月3日
 第10ドームは灰色で放射状に花びらを形成しており,北側は第5ドームの上に乗り出し,オーバーハングになっていました。また,北東及び東側には,前回の観測より成長しており,北東側は,一部第5ドームを乗り越えて10ドーム自身が崩落していました。その他のドームに変化はみられませんでした。また,火砕流堆積物の状況はドーム北側のテラス(鳩穴付近)では,前回の現地観測の時と比べ堆積物の量が増えていました。龍の馬場付近は,前回の現地観測の時と変化なく,龍の馬場の縁まで100メートル付近のところまで達していました。おしが谷方向へは,比較的新しい堆積物が,火口からの水平距離で約2キロメートル付近まで達しており,その流路はおしが谷中央部に沿って流下しており,中尾川源流への流入はありませんでした。水無川方向へは比較的新しい堆積物が,火口からの水平距離で2.5キロメートル付近まで達していました。赤松谷方向へは火口からの水平距離で1.5キロメートル付近まで達していました。
 ・3月10日
 第10ドームは花びら状で,第5ドームを覆うように大きく成長しており,北東側は斜面に向かって切り立っていました。第10ドームからの崩落は主におしが谷方向へ流下しており,比較的新しい堆積物は,山頂からの水平距離で2.5キロメートル付近まで達していました。また,堆積物の一部は中尾川源流にも入っていましたが,距離は延びていませんでした。南西方向の堆積物の状況には変化はなく,水無川,赤松谷方向へは,新しい堆積物は確認できませんでした。
 ・3月18日
 噴煙のため,南及び西側からは観測できませんでしたが,ドーム全体は前回と比べてやや褐色がかってきており,前回見られた花びら状の湧き出しはみられず,ドームはブロック状になっていました。第10ドーム東側には灰色の新しい湧き出し口があり,水無川方向へはここからの崩落と見られる灰色の堆積物がありました。

 (2) 温泉観測
 雲仙地獄,小浜温泉の現地観測を実施しました。主な地点の観測結果は第3表のとおりで,特に大きな変化はありませんでした。

第3表 温泉地獄観測表
月 日小 地 獄大叫喚地獄清七 地獄お糸 地獄

2/ 391℃93℃94℃91℃
3/ 887909792
4/ 868939493


2/ 396℃97℃97℃96℃
3/ 896979797
4/ 895979797

2/ 397℃96℃97℃97℃
3/ 893979796
4/ 894979897

2/ 32.51.64.02.2
3/ 82.21.83.92.2
4/ 82.31.74.32.3

(3) 井戸の水位
 小浜町山領における井戸の水位観測の結果は第4表のとおりです。
第4表 井戸の水位    単位:メートル
月 日 2/ 3 3/ 8 4/ 8
水面までの深さ9.19.18.9

5 遠望観測
 (1) 遠望観測
 1月以降雲仙岳測候所が行った遠望観測で,1000メートル以上の噴煙を観測したのは第5表のとおりです。これには火砕流による噴煙も含まれます。

第5表 日最高噴煙高(1,000メートル以上) 単位:メートル
1月2月3月
噴煙高噴煙高噴煙高
 −− −−91500
    121200
    141000
    201000

 (2) 第10ドームの成長の状況
 気象庁が火口南方2キロメートル付近に設置している遠望監視カメラによる,第10ドームの成長の状況は第8図のとおりです。
 (3) セオドライト(測角儀)による観測
 1月から3月にかけてセオドライト(測角儀)を用いた,ドームの大きさ及び変化量の観測を8回行いました。主な結果は,第9図・第10図に示すとおりです。

第8図 第10ドームの成長

第9図 2月15日のセオドライト観測

第10図 3月5日のセオドライト観測

6 降灰観測
 雲仙岳測候所における降灰量の観測状況は第6表のとおりです。

第6表 日降灰量(前日の9時から当日の9時までの1u当たりの量)
1月2月3月
降灰量降灰量降灰量
60.0g180.0g10.0g
170.0250.050.0
200.0260.090.3
220.6  100.6
230.3  110.0
240.0  120.0
250.3  130.3
260.0  140.0
    170.0
    190.0
    210.3
    2616.8
    270.0
    280.0
    290.0
    300.3
    310.0
合計1.2合計0.0合計18.6

7 情報の発表状況
 1月以降に発表した火山活動情報及び臨時火山情報は次のとおりです。
 また,毎日16時に発表している「雲仙岳の火山活動に関する観測速報」 は,3月31日までに90号を発表しています。
 (1) 火山活動情報  
平成5年 1月15日17時30分 第 1号 火砕流の頻発
 (2) 臨時火山情報
 平成5年 1月15日20時00分 第 1号  火砕流の頻発
 平成5年 2月10日16時40分 第 2号 第10ドームからの崩落
 平成5年 2月26日17時30分 第 3号 火山噴火予知連の統一見解
 平成5年 3月 9日17時00分 第 4号   190秒の火砕流
 平成5年 3月12日10時10分 第 5号 火山性地震の多発
 平成5年 3月12日16時55分 第 6号 180秒の火砕流
 平成5年 3月16日17時20分 第 7号 流走距離3.5kmの火砕流
 平成5年 3月22日23時25分 第 8号 180秒の火砕流
 平成5年 3月28日00時45分 第 9号 180秒の火砕流
 平成5年 4月 4日09時45分 第 10号 火砕流の流走距離3.5km,及び火砕流頻発
 平成5年 4月12日02時00分 第 11号 190秒の火砕流