定期火山情報

第1号

平成5年1月22日13時00分
雲仙岳測候所発表
火山名:雲仙岳

 

1 概 況
 雲仙・普賢岳の火山活動は11月中旬頃から火砕流の発生が減少しました。しかし,1月15日には流走距離の長い火砕流,及び継続時間の長い火砕流と思われる震動波形が発生しました。また,地震活動も引き続き活発な状況が続いています。
 10月:
 火砕流は1日に10回から15回程度で発生し,主に赤松谷方向へ流下しました。10月3日15時49分に震動波形の継続時間が260秒の火砕流が観測され,水無川方向へ3.5キロメートル流下しました。火山性地震は1日当たり50回〜150回ぐらいで推移しました。30日13時00分には橘湾を震源とする地震が発生し,雲仙岳で震度1を観測しました。
 11月:  火砕流の発生は,5日から7日にかけて1日20回程度発生しましたが,その他の日はおおむね10回から15回程度で推移しました。11月上旬及び中旬は主に赤松谷方向へ流下しましたが,下旬には水無川方向へ流下するものが多くなりました。火山性地震は,前半は100回程度で推移しましたが,16日頃から増加し,18日には365回の地震を観測しました。その後地震回数は200回程度で推移しました。
 12月:
 3日頃に第5ドーム南側に新しいドーム(第9ドーム)が出現しているのが確認されました。 火砕流は,中旬までは1日に5回から10回程度発生していましたが,下旬になると1日の発生数が1回前後と減りました。火砕流は主に赤松谷及び水無川方向に発生しました。火山性地震の発生回数は100回前後で推移しました。
 このように火砕流の回数は少なくなっています。しかし,溶岩ドーム直下を震源とする火山性地震は1日100回前後と引き続き多発傾向にあり,火山活動は消長を繰り返しながらも依然活発な状態が続いています。また,溶岩ドームは依然として不安定な状態にあり,今後より規模の大きな火砕流が発生した場合,水無川・赤松谷流域及び千本木方面へ達する恐れがあります。今後の火山活動並びに降雨時の土石流に対して厳重に警戒して下さい。

2 火砕流
 火砕流と思われる震動波形の発生状況は第1,2図及び第3図に示すとおりで11月中旬頃からその発生回数は減少しています。しかし,第1表の最近の主な火砕流の表に示すとおり,ときおり,流走距離の長い火砕流も発生しています。
 火砕流の流下方向は11月下旬までは主に赤松谷方向に流下していましたが,それ以降,赤松谷及び水無川方向へ流下しています。また,おしが谷方向へ流下する火砕流もときおり発生しています。
 10月3日15時49分には,震動波形の継続時間が260秒の火砕流が観測され,水無川方向へ3.5キロメートル流下しました。また,12月20日09時26分には波形の継続秒数が170秒の火砕流が発生し,測候所の監視カメラによると,水無川方向へ約3キロメートル流下しました。九州大学島原地震火山観測所の機上観測によると,その堆積物の先端は火口から4キロメートル付近まで達しているのが確認されました。1月15日17時頃から20時頃にかけて,波形の継続時間が長い火砕流が頻発しました。


第1図 火砕流と思われる震動波形のグラフ

第2図 火砕流と思われる震動波形のグラフ(1992.9以降)

第3図 継続時間100秒以上の火砕流と思われる震動波形のグラフ

第1表 最近の主な火砕流
(震動波形の継続時間180秒以上,または水平到達距離3km以上)

発生時間継続秒方向距 離備  考
1992年
10315時49分260E 3.5km
10923時00分180SE 2.5km
101019時44分130E 3合自衛隊観測による
10127時54分120E 3.0km
101821時11分200SE 2.5km
102811時51分160E 3.0km
11113時16分150E 3合自衛隊観測による
11113時19分60E 3合自衛隊観測による
112012時16分120E 3合自衛隊観測による
12911時03分100E 3.0km
121423時06分110E 3合自衛隊観測による
12209時26分170E 3.0km
1993年
11517時09分250 SE 4合自衛隊観測による
11517時25分230 SE 不明
11519時25分300不明 不明
11519時31分390不明 不明

3 震動観測
 雲仙岳測候所で観測した火山性地震は引き続き多く発生しました。この期間の地震・微動・火砕流と思われる震動波形の推移は第4図〜第7図,及び第2表のとおりです。
 普賢岳山体を震源とする比較的浅い地震の日別回数は,10月から11月中頃にかけて50回から150回程度で推移しました。11月中頃,地震の発生回数が増加し,11月18日には1日365回の地震が発生しました。その後11月末までは1日の地震回数が200回前後で発生し,12月以降は100回前後で発生しています。
 10月30日13時00分には普賢岳の西方約25キロメートルの橘湾を震源とする地震が発生し,雲仙岳及び長崎で震度1を観測しました。また,1月2日20時56分には普賢岳の東方約20キロメートルの有明海を震源とする地震が発生し,雲仙岳で震度1を観測しました。


第4図 地震回数の推移

第5図 微動回数の推移

第6図 地震回数の推移(1992.9以降)

第7図 微動回数の推移(1992.9以降)

第2表 月別地震・微動・火砕流と思われる震動波形数
有感地震
回  数
無感地震
回  数
総 地 震
回  数
微動回数火 砕 流
波形数
10129472948766286
11048644864723255
1203558355824986
合計111369113701738627

4 現地観測
(1) 機上観測
 1992年
 ・10月27日
 第8ドームは灰色の大きなブロック状になっており,湧き出しが続いている様子でした。第5ドーム頂部には溶岩塊の突起が多くみられました。第5ドームの北東部,第4ドームの上部がえぐられたような状態になっていました。また,第8ドーム下の斜面の溝が発達していました。
 ・11月5日
 第8ドームは灰色でブロック状になっていました。第6ドーム,第4ドームに形状の変化はありませんでした。比較的新しい火砕流堆積物は,赤松谷方向及び水無川方向で約3キロメートルまで延びていました。しかし,岩床の沢付近には大きな変化はありませんでした。おしが谷方向の堆積物は比較的少量でした。
 ・11月13日
 第8ドームの先端はブロック状で切り立っており,観測中,赤松谷方向に小規模な落石が見られました。ドームの南西側は塊が小さくなっていました。
 ・11月24日
 第8ドームは変化なく,ブロック状で先端が切り立っていました。第5ドームは盛り上がりが顕著でした。火砕流堆積物の状況に大きな変化はありませんでしたが,中尾川源流に流れ込んだ堆積物の量が増えていました。
 ・12月1日
 第8ドームのブロック状の部分はほとんど崩れ落ちており,新しい溶岩が盛んに供給されているような様子はありませんでした。第5ドームの中央部はゆっくりと隆起していました。火砕流の流路及び到達距離に大きな変化はありませんでした。また,観測中に波形の継続時間が40秒の火砕流がありましたが,崩落量は比較的少なく,勢いもありませんでした。
 ・12月9日
 山頂部は雲のため,ドームや噴煙の状況は確認できませんでした。水無川方向に比較的新しい火砕流堆積物が確認されました。
 ・12月15日
 第8ドーム及び第9ドームは,噴煙のため確認できませんでした。第5ドームの東側は溶岩塊がブロック状になって不安定でした。第4ドーム及び第6ドームに変化はありませんでした。第3ドーム及び第5ドーム付近から,白色の噴煙を500メートルの高さに上げていました。 比較的新しい火砕流堆積物は,赤松谷方向で火口から約3キロメートル付近まで達していましたが,その量は多くありませんでした。また,水無川方向も,火口から約3キロメートルまで達しており,やはり,その量は少なく流路も細い状況でした。おしが谷方向はドーム直下の急斜面以外に新しい堆積物はありませんでした。
 1993年
 ・1月12日
 第9ドームは赤茶けたブロック状でした。第5ドームの東及び北東側は切り立った斜面になっていました。比較的新しい火砕流堆積物は,赤松谷方向及び水無川方向へは約2キロメートル,おしが谷方向へは約1.5キロメートル流下していました。
 ・1月20日
 山頂部は雲に覆われていたため,ドームの状況は確認できませんでした。比較的新しい堆積物が,赤松谷及び水無川方向へ約2.5キロメートル流下していました。おしが谷方向へは約2.0キロメートル流下していました。また,南東側斜面にえぐられた跡がありました。
(2) 温泉観測
 雲仙地獄,小浜温泉の現地観測を実施しました。主な地点の観測結果は第3表のとおりで,特に大きな変化はありませんでした。

第3表 温泉地獄観測表
月 日小 地 獄大叫喚地獄清七 地獄お糸 地獄

11/ 964℃91℃97℃93℃
12/ 371929093
1/ 883899390


11/ 995℃96℃97℃97℃
12/ 396979798
1/ 895979897

11/ 995℃93℃98℃96℃
12/ 394979796
1/ 898979797

11/ 92.21.53.12.1
12/ 32.31.54.02.1
1/ 82.51.84.72.3

(3) 井戸の水位
 小浜町山領における井戸の水位観測の結果は第4表のとおりです。
第4表 井戸の水位    単位:メートル
月 日11/ 912/ 3 1/ 8
水面までの深さ8.58.99.1

(4) 火口現地観測
 12月22日に火口の現地観測を実施しました。
 ・噴気地帯の温度は,最も高いところで807℃でした。
 ・普賢池の水温は4.3℃でPHは2.9でした。

5 遠望観測
(1) 遠望観測
 10月以降雲仙岳測候所が行った遠望観測で,1000メートル以上の噴煙を観測したのは第5表のとおりです。これには火砕流による噴煙も含まれます。

第5表 日最高噴煙高(1,000メートル以上) 単位:メートル
10月11月12月
噴煙高噴煙高噴煙高
3150021100 −−
121100    
25>1500    
281200    
301000    

6 降灰観測
 雲仙岳測候所における降灰量の観測状況は第6表のとおりです。

第6表 日降灰量(前日の9時から当日の9時までの1u当たりの量)
10月11月12月
降灰量降灰量降灰量
1 4.5g1 0.0g1 0.0g
20.3 23.0 30.0
31.2 30.0 40.0
40.0 70.0 50.9
50.0 80.0 190.0
60.6 91.5   
85.7 160.0   
939.9 270.0   
103.3 290.0   
1115.9 302.7   
120.0     
136.0     
1423.4     
1515.9     
1613.2     
170.9     
180.1     
200.9     
210.0     
2218.0     
231.5     
260.0     
271.2     
28134.7     
290.0     
300.0     
287.27.2 0.9

7 情報の発表状況
 10月以降に発表した火山活動情報及び臨時火山情報は次のとおりです。
 また,毎日16時に発表している「雲仙岳の火山活動に関する観測速報」は,12月31日までに197号を発表しています。
(1) 火山活動情報
 平成5年 1月15日17時30分 第 1号 火砕流の頻発
(2) 臨時火山情報
 平成4年10月 3日16時05分 第156号  260秒の火砕流
 平成4年10月 9日23時15分 第157号 180秒の火砕流
 平成4年10月16日17時30分 第158号 火山噴火予知連の統一見解
 平成4年10月18日21時25分 第159号   200秒の火砕流
 平成4年10月28日12時05分 第160号 160秒の火砕流
 平成4年11月11日03時40分 第161号 150秒の火砕流
 平成4年11月18日16時40分 第162号 火山性地震増加
 平成4年12月16日16時10分 第163号 火山噴火予知連の会長コメント
 平成4年12月20日09時40分 第164号 170秒の火砕流
 平成5年 1月15日20時00分 第 1号 火砕流の頻発