定期火山情報

第1号

平成4年5月8日10時00分
雲仙岳測候所発表
火山名:雲仙岳

 

1 概 況
 普賢岳の火山活動は12月以降も活発な状況が続いています。
 12月:
 普賢岳山体を震源とする比較的浅い地震は引き続き群発し,12月1日には540回の地震を観測しました。この地震の群発は12月20日頃から一時減少しましたが,29日頃から再び増加し始めました。12月上旬には火口南東側に第6ドームの生成が確認されました。 12月中旬頃には,第4ドームの成長は鈍化し,代わって第5ドームが隆起,第6ドームは斜面に舌状に成長しました。
 1月:
 普賢岳山体を震源とする比較的浅い地震は増加を続け,1月中旬からは1日約200回のペースで発生するようになりました。 第5,第6ドームは成長と崩落を繰り返し,1月中旬には第5ドームが普賢岳山頂(1,359.3m)に迫る高さとなりました。また,火砕流は火口南東側赤松谷方向及び火口東側水無川方向に頻繁に発生しました。
 2月:
 普賢岳山体を震源とする比較的浅い地震は多い状態が続き,月を通して1日に200〜300回で推移しました。 第5・第6ドームは成長と崩落を繰り返し,火砕流は主に赤松谷方向及び水無川方向に頻繁に発生しました。特に,2日17時38分には,震動波形の継続時間が140秒の火砕流が発生し,炭酸水谷を流下して,火口から3キロメートル付近まで流下しました。また,12日20時38分には震動波形の継続時間が300秒に達する火砕流が赤松谷方向へ発生しました。
 3月:
 5日頃から普賢岳山体を震源とする比較的浅い地震は減少し始め,10日頃には1日の発生回数が50回程度となりました。しかし,その後再び増加し始め,23日は1日で586回の地震が発生し,噴火が始まって以来最多の回数となりました。 第6ドームは成長と崩落を繰り返し,火砕流は主に赤松谷方向及び水無川方向に頻繁に発生しました。
 4月:
 上旬は3月に引き続き,普賢岳山体を震源とする比較的浅い地震が多く発生しましたが,その後減少して7日以降は100回以下となりました。しかし,16日頃からは再び回数が増加し始め,下旬は回数がやや多い状態が続きました。 6日には第6ドームの南側に第7ドームが確認され,その後成長と崩落を繰り返し,火砕流は主に赤松谷方向及び水無川方向へ頻繁に発生しました。特に,22日23時30分には震動波形の継続時間が310秒に達し,昨年9月15日以来の長い継続時間を観測しました。
 このように火山活動は依然活発な状態が続いており,今後より規模の大きな火砕流が発生した場合,水無川・赤松谷流域及び千本木方面へ達する恐れがあります。今後の火山活動並びに降雨時の土石流に対して厳重に警戒して下さい。

2 火砕流
 火砕流と思われる震動波形の発生状況は第1図に示すとおり,12月以降現在に至るまで頻繁に発生しています。
 火砕流は,11月下旬頃から火口南東方向の炭酸水谷へ流下するのが観測されるようになり,12月上旬には更に南の極楽谷へも流下するようになりました。これ以降,火砕流は主に火口南東側赤松谷方向及び火口東側水無川方向に発生するようになりました。
 1月5日19時37分には継続時間130秒の火砕流と思われる震動波形を観測し,これに伴う火砕流は火口南東側の炭酸水谷を下り,その先端は,警戒区域の中の民家まで数百メートルの所まで達しました。
 2月からは,比較的規模の大きな火砕流が多く発生するようになり(第2図),これらに伴う大量の火山灰が深江町・島原市を中心に降りました。また,火口南東方向への火砕流の流路もこれまでの炭酸水谷・極楽谷に加え,さらに極楽谷の西側を通り,赤松谷本流を流下するものがありました。
 2月2日17時38分には震動波形の継続時間が140秒の火砕流が発生し,火口南東方向3キロメートル付近まで達しました。また,2月12日20時20分には継続時間が290秒,20時28分には継続時間が300秒の火砕流が発生しましたが,民家等への被害はありませんでした。さらに,13日00時25分には継続時間が120秒の火山雷を伴う火砕流が観測され,赤松谷上流で山林火災が発生しているのが確認されました。
 3月は,2月と同様に比較的規模の大きな火砕流が発生し,これらの火砕流の先端は火口南東側赤松谷方向へ2〜3キロメートル付近まで達しました。
 4月は比較的規模の大きな火砕流が発生しました。
4日09時13分には,震動波形の継続時間が130秒の火砕流が発生しました。この火砕流は水無川方向へ流下し,先端は島原市の北上木場地区まで達しました。
 22日19時13分には震動波形の継続時間が120秒の火砕流が発生し,23日午前1時頃まで,火砕流と微動が頻発しました。特に,22日20時54分には震動波形の継続時間が270秒の火砕流が,また22日23時30分には震動波形の継続時間が310秒の火砕流が発生し赤松谷で山林火災が確認されました。


第1図 火砕流と思われる震動波形のグラフ

第2図 継続時間100秒以上の火砕流と思われる震動波形のグラフ

3 震動観測
 この期間の地震・微動・火砕流と思われる震動波形の推移は第3図・第4図及び第1表のとおりです。(値は速報値で,後日修正される事があります)。
 4月1日は橘湾を震源とする地震で,21時08分に震度2及び21時14分に震度1を観測しました。 普賢岳山体を震源とする比較的浅い地震は,この期間発生回数が多く,2月の月間地震回数は,1990年11月の噴火以降最も多くなりました。月別地震回数の順位は第2表のとおりです。


第3図 地震回数の推移
第1表 月別地震・微動・火砕流と思われる震動波形数
有感地震
回  数
無感地震
回  数
総 地 震
回  数
微動回数火 砕 流
波 形 数
1204,2534,2531,726395
105,3385,3381,530308
206,4236,4231,287344
305,6635,6631,566504
423,0513,0531,237332
合計224,72824,7307,3461,883

第2表 地震の多い月の順位表(1990.11以降)
順 位 年   月月別地震回数
11992年2月6,423
21992年3月5,663
31992年1月5,338
41991年12月4,253
51991年11月3,933


第4図 微動回数の推移

4 現地観測
 (1) 機上観測
 ・12月20日
 第5ドームは前回の観測に比べ高く盛り上がっていました。
 第6ドームはさらに大きく成長し,花びら状になっていました。
 ・1月4日
 第5ドームは隆起が著しく,頂部は数個に分かれ突き立っていました。
 第6ドームは灰黒色で前回の観測に比べ大きく成長しており,先端は扇状に広がっていました。
 第4ドームには大きな変化はありませんでした。
 ・1月16日
 第5ドームは褐色で大きな岩塊を屹立させながら隆起しており,第4ドームを乗り越えて崩落していました。
 第6ドームは灰黒色で大きなブロック状になっており,ドーム全体が成長していました。
 ・1月21日
 第5ドームは大きな溶岩塊を屹立させながら隆起しており,不安定さを増していました。
 赤外熱映像カメラによると,第6・第5ドームから北東方向への流路・第4ドーム先端部の崩落跡及びその上部に高温部が認められ,最も温度の高い所で476℃を示し,依然として高熱を保持しているのが観測されました。
 第6ドームは噴煙により全体を観測できませんでした。
 ・2月5日
 噴煙及び火砕流のためドームの状況は確認できませんでした。炭酸水谷の火砕流堆積物は前回の観測の時より厚みを増していました。また,極楽谷上部の斜面の火砕流堆積物も同様に多くなっており,一部は極楽谷の西側を流下していました。
 ・2月14日
 第6ドームの先端は切り立った崖になっていました。また,2月12日の火砕流発生場所と推定される円弧状の崩落跡が第6ドーム先端の南側にみられました。
 第6ドームのつけ根付近の第5ドームとの間に溶岩の湧き出しと見られる花びら状の隆起がみられました。
 火砕流堆積物はそれまでの炭酸水谷・極楽谷に加え,さらに極楽谷の西側を流下したものは岩床山の北の縁につき当って東に曲がり,赤松谷本流に沿ってさらに数百メートル細長く分布していました。
 ・2月18日
 第5ドームの頂部付近は溶岩塊が屹立しており,また第6ドームの先端は引き続き切り立った崖で不安定な状態でした。また,第6ドームの頂部付近にはブロック状の溶岩塊が無数にありました。
 火砕流堆積物の広がりは炭酸水谷及び極楽谷では大きな変化はありませんでしたが,極楽谷の西側を通り赤松谷本流を下るルートではやや延びていました。
 ・2月28日
 第5ドームは褐色で一段と盛り上がっていました。
 第6ドームは先端が切り立っており,先端中央部に大きな割れ目が走っていました。また,第6ドームの上部は,溶岩が大きなブロック状に積み重なっていました。
 ・3月7日
 第6ドームは前回の観測に比べ厚みを増し,全体に膨れていました。
 第4ドームの形状に大きな変化はありませんでしたが,その先端部から100メートル程度下方まで熱水が流れ出た跡のような,黒色の変色域がありました。
 観測中に北東・東及び南東方向へ時々溶岩が崩落するのを確認しました。
 ・3月11日
 第6ドームは一段と盛り上がり,湧き出し口と見られる所が花びら状の割れ目となって不安定な状態となっていました。
 第5・第4ドームには特に大きな変化はありませんでした。
 火砕流堆積物は極楽谷及びその西方を通り赤松谷の本流を下るルートでさらに広がっていました。
 ・3月17日
 第6ドームは全体に厚みを増し,先端部は重ね餅状になり縦に数本の亀裂が見られました。また第6ドーム上部の湧き出し口は盛り上がり,左右にブロック状に広がり不安定になっいていました。
 火砕流堆積物は極楽谷及びその西方を通り赤松谷の本流を下るルートでさらに広がりと厚みを増していました。
 ・3月31日
 第6ドームは全体にブロック状で,中央部には先端部に向かって50〜80メートルの長さの亀裂がありました。先端部の南側は大きく崩落し,前回に比べて形を大きく変えていました。
 その他のドームには大きな変化は見られませんでした。
 ・4月8日
 第6ドームは重ね餅状で先端部は膨らんだようになっており,一部赤茶けた部分がありました。
 第6ドームつけ根の南側斜面に第7ドームが新たに隆起しているのが確認されました。色は灰黒色で湧き出し口付近はブロック状になっており不安定な状態でした。観測中にも先端付近及びつけ根付近で崩落が観測されました。
 その他のドームには大きな変化はありませんでした。
 ・ 4月14日
 第7ドームは長さが100メートルくらいに成長しており,全体にブロック状でした。
 その他のドームについては大きな変化はありませんでした。
 ・4月21日
 ドーム頂部付近は雲のため確認できませんでしたが,第7ドームは先端が前回の観測よりもさらに前進しており,表面はブロック状でした。
 第6ドームについては大きな変化はありませんでした。
 ・4月28日
 第7ドームの長さは150から200メートルとなっており,大きなブロック状でした。
 その他のドームについては大きな変化はありませんでした。
 (2) 温泉観測
 雲仙地獄,小浜温泉の現地観測を実施しました。主な地点の観測結果は第3表のとおりで,特に大きな変化はありませんでした。

第3表 温泉地獄観測表
月 日小 地 獄大叫喚地獄清七 地獄お糸 地獄

1/774℃91℃96℃94℃
2/773 92 94 97
3/371 92 94 94
4/1973 93 93 93


1/797℃97℃98℃95℃
2/794 97 99 92
3/393 97 100 95
4/1995 95 100 96

1/792℃96℃93℃98℃
2/786 97 96 98
3/384 96 97 98
4/1975 96 97 98

1/72.1 1.3 2.7 2.1
2/72.1 1.4 3.2 2.1
3/32.1 1.3 2.4 2.0
4/192.5 1.7 2.5 2.2

 (3) 井戸の水位
 小浜町山領における井戸の水位観測の結果は第4表のとおりです。
第4表 井戸の水位    単位:メートル
  月   日1/72/73/74/19
水面までの深さ9.19.19.18.6

5 遠望観測
 12月以降雲仙岳測候所が行った遠望観測で,1000メートル以上の噴煙を観測したのは第5表のとおりです。これには火砕流による噴煙も含まれます。

第5表 日最高噴煙高(1,000メートル以上) 単位:メートル
12月1月2月3月4月
噴煙高噴煙高噴煙高噴煙高噴煙高
1 1500 11 1000 2 1700 3 1500 3 1000
2 1000 12 1300 5 1000 11 2000 6 1000
3 1200 27 1400 6 1200 12 1000 13 1200
4 1200   7 1500 13 1400 17 1500
9 1100   12 1000 30 1500 22 1000
10 1500   14 1000   25 1000
11 1100   16 1200     
12 1500   19 1000     
21 1000   25 1200     
30 1500         

6 降灰観測
 雲仙岳測候所における降灰量の観測状況は第6表のとおりです。

第6表 日降灰量(前日の9時から当日の9時までの1u当たりの量)
12月1月2月3月4月
降灰量降灰量降灰量降灰量降灰量
112.3g61.2g31.2g10.0g10.9g
22.1 80.3 54.520.0 313.3
32.4 100.3 60.0 34.5 40.0
71.5 111.2 70.0 45.4 50.0
91.5 120.3 80.6 80.9 770.5
140.6 180.3 90.0 1012.4 81.5
161.5   112.7 110.0 90.0
204.2   120.6 120.0 230.0
    130.0 130.0 240.0
    190.0 160.0   
    250.3 180.0   
      2017.2   
      220.6   
      2329.0   
      250.0   
      280.0   

7 噴火日
 雲仙岳測候所で確認した噴火日は第7表のとおりです。

第7表 噴火日
12月1月2月3月4月
1    
2
3
4
5
6 
7
8
9
10 
11 
12
13 
14 
15 
16 
17
18 
19
20
21 
22 
23 
24  
25 
26 
27 
28 
29  
30 
31 

8 情報の発表状況
  12月以降に発表した火山活動情報及び臨時火山情報は次のとおり。

 (1) 火山活動情報
 平成4年2月 2日17時50分 第1号
 平成4年2月12日20時30分 第2号
 平成4年4月22日21時30分 第3号
 (2) 臨時火山情報
 平成3年12月 1日21時10分 第139号 平成4年 3月17日01時05分 第47号
 平成3年12月 4日08時10分 第140号 平成4年 3月17日18時45分 第48号
 平成3年12月 5日16時35分 第141号 平成4年 3月17日22時05分 第49号
 平成3年12月12日15時20分 第142号 平成4年 3月18日12時05分 第50号
 平成3年12月19日18時30分 第143号 平成4年 3月21日14時10分 第51号
                        平成4年 3月21日22時10分 第52号
 平成4年 1月 4日14時30分 第 1号  平成4年 3月22日03時10分 第53号
 平成4年 1月 5日19時55分 第 2号  平成4年 3月23日12時20分 第54号
 平成4年 1月 6日21時50分 第 3号  平成4年 3月23日16時05分 第55号
 平成4年 1月16日18時05分 第 4号  平成4年 3月23日22時40分 第56号
 平成4年 1月28日15時00分 第 5号  平成4年 3月24日00時15分 第57号
 平成4年 2月 2日09時02分 第 6号  平成4年 3月24日21時45分 第58号
 平成4年 2月 2日17時20分 第 7号  平成4年 3月28日15時15分 第59号
 平成4年 2月 2日19時20分 第 8号  平成4年 3月28日19時15分 第60号
 平成4年 2月 3日11時05分 第 9号  平成4年 3月29日11時45分 第61号
 平成4年 2月 3日13時40分 第10号  平成4年 3月30日01時15分 第62号
 平成4年 2月 5日13時17分 第11号  平成4年 3月30日07時05分 第63号
 平成4年 2月 5日14時55分 第12号  平成4年 3月31日14時40分 第64号
 平成4年 2月 6日06時42分 第13号  平成4年 3月31日22時45分 第65号
 平成4年 2月 6日09時48分 第14号  平成4年 4月 1日15時35分 第66号
 平成4年 2月 7日17時05分 第15号  平成4年 4月 1日21時30分 第67号
 平成4年 2月 9日07時40分 第16号  平成4年 4月 2日00時25分 第68号
 平成4年 2月10日04時45分 第17号  平成4年 4月 2日02時15分 第69号
 平成4年 2月12日16時55分 第18号  平成4年 4月 2日16時30分 第70号
 平成4年 2月12日21時55分 第19号  平成4年 4月 3日02時10分 第71号
 平成4年 2月13日00時55分 第20号  平成4年 4月 3日14時50分 第72号
 平成4年 2月13日19時10分 第21号  平成4年 4月 4日09時30分 第73号
 平成4年 2月14日11時50分 第22号  平成4年 4月 4日21時30分 第74号
 平成4年 2月15日14時25分 第23号  平成4年 4月16日01時40分 第75号
 平成4年 2月16日13時20分 第24号  平成4年 4月16日16時15分 第76号
 平成4年 2月16日20時25分 第25号  平成4年 4月17日15時25分 第77号
 平成4年 2月17日22時35分 第26号  平成4年 4月17日22時15分 第78号
 平成4年 2月18日00時55分 第27号  平成4年 4月18日08時25分 第79号
 平成4年 2月28日17時45分 第28号  平成4年 4月18日22時55分 第80号
 平成4年 2月29日07時15分 第29号  平成4年 4月19日03時00分 第81号
 平成4年 3月 1日00時05分 第30号  平成4年 4月20日02時25分 第82号
 平成4年 3月 1日17時25分 第31号  平成4年 4月22日19時25分 第83号
 平成4年 3月 2日00時57分 第32号  平成4年 4月22日20時20分 第84号
 平成4年 3月 2日08時35分 第33号  平成4年 4月22日22時40分 第85号
 平成4年 3月 2日16時05分 第34号  平成4年 4月22日23時40分 第86号
 平成4年 3月 3日05時45分 第35号  平成4年 4月23日07時05分 第87号
 平成4年 3月 3日07時15分 第36号  平成4年 4月24日18時40分 第88号
 平成4年 3月 4日17時10分 第37号  平成4年 4月25日07時55分 第89号
 平成4年 3月 4日21時40分 第38号  平成4年 4月30日13時30分 第90号
 平成4年 3月 6日05時25分 第39号  平成4年 5月 2日01時00分 第91号
 平成4年 3月 6日14時15分 第40号  平成4年 5月 4日07時15分 第92号
 平成4年 3月11日14時30分 第41号  平成4年 5月 8日05時05分 第93号
 平成4年 3月13日15時00分 第42号  
 平成4年 3月15日11時05分 第43号  
 平成4年 3月15日14時05分 第44号  
 平成4年 3月16日02時40分 第45号  
 平成4年 3月16日06時40分 第46号