定期火山情報

第3号

平成3年12月25日15時00分
雲仙岳測候所発表
火山名:雲仙岳

 

1 概 況
 普賢岳の火山活動は8月以降も活発な状態が続いています。
 8月:
 11日から16日にかけて普賢岳山体を震源とする比較的浅い地震が群発しました。12日午前0時頃には,仁田峠第2展望台からの遠望観測により,ドームの西側で噴石を約100メートルの高さに上げているのが確認されました。中旬には,火砕流の発生が減少するとともに,第2ドームの成長が鈍化し,それとともに第2ドームの西側で第3ドームが大きく成長するのが観測されました。8月下旬には,第3ドームは北東側へせり出して成長するようになり,火砕流の発生が再び増加するとともに,比較的大きな火砕流がおしが谷を経て島原市の板底地区へ流下するのが観測されるようになりました。これらの火砕流は多量の火山灰を周辺に降らせました。
 9月:
 9月に入ってもおしが谷方向への火砕流は続きました。6日から17日にかけて普賢岳山体を震源とする比較的浅い地震が群発しました。上旬には第3ドーム北東側のせり出し部分に亀裂が入っているのが確認されました。亀裂はだんだん大きくなっていき,15日18時42分及び18時54分にはこの部分の崩落によると思われる規模の大きな火砕流が発生しました。この火砕流は,おしが谷を経て水無川流域へ流下し,直進した熱風により深江町大野木場小学校を含む193棟が焼失しました。この崩落した部分から第4ドームが生成し,成長を続けました。
 10月:
 10月に入ってからも第4ドームは北東側斜面に,成長と崩落を繰り返し,火砕流も主に北東及び東側斜面で発生しました。上旬頃からは火映現象が見られるようになり,下旬には第3ドーム西側で火炎現象が見られるようになりました。
 11月:
 11月に入ってからも第4ドームは成長と崩落を繰り返し,ドームの大きさは最大規模に達しました。6日から普賢岳山体を震源とする比較的浅い地震が群発傾向を示すようになり,14日からは1日あたり100回を超えるようになり,22日からは1日あたり200回を超えるようになりました。中旬頃から火砕流は火口南東斜面へも流下するようになりました。下旬には,第4ドームつけ根付近に第5ドームの生成が確認されました。
 12月:
 12月に入ってからも普賢岳山体を震源とする比較的浅い地震は引き続き群発し,12月1日には今回の活動中もっとも多い540回の地震を観測しました。この地震の群発は12月20日頃まで続き,12月上旬には火口南東側に第6ドームの生成が確認されました。
 このように火山活動は依然活発な状態が続いており,今後より規模の大きな火砕流が発生した場合,水無川・赤松谷流域,千本木方面へ達する恐れがあります。今後の火山活動,また降雨時の土石流に対して厳重に警戒して下さい。

2.火砕流
 火砕流と思われる震動波形の発生状況は第1図に示すとおりで,8月以降も現在に至るまで活発に発生しています。
 7月下旬頃から,それまで東側(水無川)方向に発生していた火砕流は北東側(おしが谷)方向へも発生するようになりました。8月中旬の第3ドーム出現の頃には,一時火砕流の発生が少なくなりました。その後第3ドームの成長にともない,おしが谷方向へ火砕流が多く発生するようになってきました。8月下旬には,比較的大きな火砕流がおしが谷を経て島原市の板底地区へ達するようになり,火砕流の流路の谷と,島原市の千本木地区を隔てている垂木台地の上で樹木が焼けているのが確認されました。
 9月15日には規模の大きな火砕流が発生し,18時42分に360秒,18時54分に670秒の火砕流と思われる震動波形を観測しました。この火砕流はおしが谷を経て水無川流域を5.5キロメートル流下し,島原市白谷町付近にまで達しました。この火砕流により,深江町大野木場小学校を含む193棟が焼失しました。特に風下の島原市・深江町・布津町では強い降灰がありました。また,火山雷が観測され,島原市内では火山豆石が降るのが確認されました。
 10月から11月上旬にかけては大きな火砕流は発生しませんでしたが,成長した第4ドーム先端及びつけ根付近からは北東側及び東側に頻繁に火砕流が発生しました。11月中旬頃からは火口南東方向へも火砕流が発生するようになり,11月下旬頃からは火砕流は火口南東方向の炭酸水谷へ入るのが観測されるようになりました。また,12月上旬には,さらに南側の極楽谷へ入る火砕流が観測されようになりました。


第1図 火砕流と思われる震動波形のグラフ

3 震動観測
 この期間の地震,微動,火砕流と思われる震動波形の推移は第1表及び第2図のとおりです(値は速報値で,後で修正される事があります)。有感地震となる火山性地震は観測されませんでしたが,8月8日06時27分に天草灘を震源とする地震で震度1,10月28日に周防灘を震源とする地震で震度2を雲仙岳測候所で観測しました。
 8月中旬,9月中旬,及び11月上旬から12月中旬にかけて,普賢岳山体を震源とする比較的浅い地震が群発し,第3ドーム,第4ドーム,第5ドーム,第6ドームの出現が確認されました。特に11月上旬からの群発地震は長期にわたり,11月10日頃から20日頃にかけて,気象庁地磁気観測所の地磁気観測によれば,火口付近の全磁力が減少し,普賢岳付近の地下のマグマ活動が活発化しつつある事が推定されました。

第1表 月別地震・微動・火砕流と思われる震動波形数
有感地震
回  数
無感地震
回  数
総 地 震
回  数
火 砕 流
震動回数
微動回数
80 559 559 292 1,599
90 2,102 2,102 521 1,758
100 208 208 438 1,341
110 3,933 3,933 149 813
合計0 6,802 6,802 1,400 5,511



第2図 地震・微動回数の推移

4 現地観測
 (1) 機上観測
 ・9月16日
 第3ドームの北東側にせり出した部分が崩落して無くなっており,その跡に新しい溶岩のわき出し(第4ドーム)がありました。火砕流堆積物はおしが谷を経て島原市白谷町付近に達していました。また,垂木台地の上部の樹木が焼けていました。
 ・9月25日
 第4ドームは北東方向に成長していました。
 ・9月29日
 第4ドームはさらに成長して全長300メートルくらいに達しており,中央に花びら状の割れ目が発達していました。また,垂木台地の西部で火砕流流路の谷との高低差がなくなっていました。
 ・10月2日
 9月29日の観測と大きな変化はみられませんでした。
 ・10月7日
 第4ドームつけ根付近及び第3ドームには無数に亀裂が入っており,青白色の噴気が出ていました。
 ・10月22日
 第4ドームはさらに成長し,溶岩のわき出し口付近は花びら状に割れ目が入っていました。噴煙が出ている範囲が広くなっており,量も前回よりも多くなっていました。第4ドームわき出し口付近から青白色の噴気が出ていました。
 ・10月29日
 第4ドームと第2ドームの間に黒く尖っている新たな隆起部分がありました。また,第2,第4ドームとも先端部は丸みを帯びていました。
 ・11月5日
 第4ドームは全体的に大小の亀裂が入っており,花びら状の溶岩部分はその形状を若干崩していました。第4と第2ドームの間の隆起部分は成長していました。第3ドームから第2ドームを越えて火口南東方向への火砕流の流路がありました。
 ・11月12日
 第4ドームは全体にざくろ状になっており,その先端は切り立っていました。第4ドームと第2ドームの間の盛り上がった部分はさらに東側へせり出していました。
 ・11月15日
 第4ドームの頂部に花びら状の割れ目ができていました。第3ドーム及び第4ドームの頂部付近から青白色の噴気が出ており,ドームの西側の火口から灰白色の噴煙を勢いよく上げていました。
 ・11月19日
 第4ドームの頂部付近に隆起した溶岩塊が大きく割れていました。
 ・11月26日
 第4ドームの先端は扇状に広がって切り立っており,頂部に花びら状に割れた溶岩がわき出して,東側に傾いていました(第5ドーム)。また,第2ドームと第4ドームの間隙が埋めつくされており,第2ドームを乗り越えて崩落を繰り返していました。
 ・12月5日
 第5ドームはさらに大きくなっており,一部は第2ドームの上に乗りかかっていました。第5ドームの南側に新たな隆起部分があり(第6ドーム),ブロック状になり,切り立っていました。
 ・12月10日
 第6ドームは南東側斜面に成長し,花びら状になっており,盛んに崩落を繰り返していました。
 ・12月20日
 第5ドームは前回の観測に比べ,高く盛り上がっていました。第6ドームはさらに大きく成長し,花びら状になっていました。
 (2) 温泉観測
 雲仙地獄,小浜温泉の現地観測を実施しました。主な地点の観測結果は第2表のとおりでした。

第2表 温泉地獄観測表
月 日小 地 獄大叫喚地獄清七地獄お糸地獄
泉 温9/1271℃95℃96℃94℃
10/2677 94 96 93
11/2275 93 96 93
12/1375 93 96 96
噴気温9/1291℃98℃98℃97℃
10/2695 97 98 96
11/2297 96 98 96
12/1396 97 101 97
地 温9/1296℃95℃97℃96℃
10/2690 94 98 97
11/2292 95 98 93
12/1397 98 98 97
P H9/122.7 1.9 5.5 2.3
10/262.5 1.8 4.6 2.2
11/222.5 1.6 3.5 2.1
12/132.3 1.3 2.9 1.9


 (3) 井戸の水位
 小浜町山領における井戸の水位観測の結果は第3表のとおりです。
第3表 井戸の水位
月   日10/2611/2212/12
水面までの深さ(m)7.9 8.7 9.0

5 遠望観測
 (1) 遠望観測
 8月以降雲仙岳測候所が行った遠望観測で,1000メートル以上の噴煙を観測したのは第4表のとおりです。これには火砕流による噴煙も含まれます。 また,仁田峠第2展望台からの遠望観測により,10月24日,11月9日,11月17日には赤熱現象及び火映現象が,また10月25日,11月2日,11月3日,11月6日,12月16日には火炎及び赤熱,火映現象が確認されています。また,九州大学島原地震火山観測所によると火映現象は10月初旬から確認されています。

第4表 日最高噴煙高(1000メートル以上)
8月9月10月11月12月
噴煙高噴煙高噴煙高噴煙高噴煙高
11000m11000m241300m21500m11500m
21000 21000 251000 31000 21000
31300 42500 261000 81500 31200
71400 51300 281000 111200 41200
81500 61000 301500 151000 91100
122000 71200 311000 161000 101500
141000 81500 181000 111100
261300 101000 291000 121500
271500 111200 211000
311000 121300
201500
211500

6 降灰観測
 雲仙岳測候所における降灰の観測状況は第5表のとおりです。8月27日には,雲仙岳測候所で降灰を観測し始めた1990年11月17日以降最大量の506.5gを観測しました。また,9月6日22時頃火口北東側5キロメートルの島原市宇土町で1平方メートルあたり3.9Kgの灰が積もっていました。

第5表 日降灰量(前日の9時から当日の9時までの1u当たりの量)
8月9月10月11月12月
降灰量降灰量降灰量降灰量降灰量
20.0g21.2g21.2g10.6g112.3g
821.1 83.3 51.5 20.0 22.1
90.3 977.6 80.6 30.0 32.4
13119.6 1073.8 91.5 51.5 71.5
144.8 113.3 121.8 60.0 91.5
159.1 120.0 162.7 70.3 140.6
160.6 147.2 223.6 110.0 161.5
178.2 16394.7 2411.8 160.9 204.2
190.6 174.8 251.5 210.0
211.5 184.2 260.9 258.2
231.5 1914.8 270.3 260.9
2651.0 200.3 280.3 30127.4
27506.5 227.8 294.5
281.5 240.0 300.6
2910.0 2914.5 3114.4
300.9

7 噴火日
 雲仙岳測候所で確認した噴火日は第6表のとおりです。

第6表 噴火日
8月9月10月11月12月
1
2 
3
4
5
6 
7
8
9
10
11
12 
13 
14  
15
16
17 
18
19 
20 
21
22 
23  
24  
25 
26 
27  
28  
29 
30   
31   

 なお,8月以降雲仙岳測候所が発表した火山活動情報及び臨時火山情報は次のとおりです。
 (1) 火山活動情報
  平成3年8月29日20時30分 第12号
  平成3年9月15日18時55分 第13号
 (2) 臨時火山情報
 平成3年 8月 5日00時10分 第 95号 平成3年 8月12日00時30分 第 96号
 平成3年 8月12日19時55分 第 97号 平成3年 8月15日15時45分 第 98号
 平成3年 8月25日18時55分 第 99号 平成3年 8月26日16時50分 第100号
 平成3年 8月27日20時50分 第101号 平成3年 8月28日14時00分 第102号
 平成3年 8月29日07時00分 第103号 平成3年 8月29日21時30分 第104号
 平成3年 8月30日10時15分 第105号 平成3年 8月31日01時15分 第106号
 平成3年 8月31日15時15分 第107号 平成3年 9月 4日07時50分 第108号
 平成3年 9月 4日13時30分 第109号 平成3年 9月 6日22時15分 第110号
 平成3年 9月 7日16時10分 第111号 平成3年 9月 8日16時20分 第112号
 平成3年 9月 9日18時05分 第113号 平成3年 9月 9日22時05分 第114号
 平成3年 9月10日17時25分 第115号 平成3年 9月11日18時05分 第116号
 平成3年 9月15日18時00分 第117号 平成3年 9月15日20時15分 第118号
 平成3年 9月16日00時15分 第119号 平成3年 9月29日15時30分 第120号
 平成3年10月 1日16時30分 第121号 平成3年10月23日18時05分 第122号
 平成3年10月25日18時00分 第123号 平成3年11月 5日17時00分 第124号
 平成3年11月 7日11時10分 第125号 平成3年11月12日16時50分 第126号
 平成3年11月13日16時40分 第127号 平成3年11月15日16時45分 第128号
 平成3年11月19日11時55分 第129号 平成3年11月21日16時00分 第130号
 平成3年11月23日14時10分 第131号 平成3年11月24日12時30分 第132号
 平成3年11月25日16時50分 第133号 平成3年11月26日18時45分 第134号
 平成3年11月27日17時45分 第135号 平成3年11月29日11時40分 第136号
 平成3年11月30日15時40分 第137号 平成3年12月 1日07時25分 第138号
 平成3年12月 1日21時10分 第139号 平成3年12月 4日08時10分 第140号
 平成3年12月 5日16時35分 第141号 平成3年12月12日15時20分 第142号
 平成3年12月19日18時30分 第143号