定期火山情報

第2号

平成3年8月17日12時00分
雲仙岳測候所発表
火山名:雲仙岳

 

1 概 況
 普賢岳は4月以降活発な活動を続けています。
 4月:
 上旬に地獄跡火口から黒灰色の噴煙を上げて噴火しました。
 上旬と中旬に有感を含む火山性地震が群発しました。
 5月:
 中旬に入って普賢岳山頂付近で微小地震が群発しました。
 下旬には地獄跡火口内に溶岩の塊がせり上がっているのが確認されました。溶岩塊は日を追って成長し一部は東側の縁を越えて崩落するようになり,24日には初めて火砕流の発生を確認しました。
 6月:
 上旬は火砕流が頻繁に発生しました。3日と8日の大規模火砕流では死傷者多数,家屋焼失などの大惨事となりました。
 中旬はじめの噴火で多量の軽石状の噴石が島原市に落下し,多数の車両が被害をうけました。
 下旬30日の大雨時に,水無川流域に大規模な土石流が発生しました。
 7月:
 火砕流は引き続き発生しました。溶岩ドームは最大規模に成長しています。
 8月:
 11日から12日にかけて,普賢岳山頂付近で微小な地震が群発しました。地獄跡火口内で噴石が飛散しているのを確認しました。

2.火 砕 流
 5月20日地獄跡火口に溶岩塊がせり上がり,溶岩ドームが形成されているのが確認されました。溶岩ドームは日を追って成長し,23日にはその一部が東側の縁を越えて落下を始めました。
 24日には溶岩塊の崩落による火砕流が水無川上流に流れ下るのを初めて確認しました。
 26日には火砕流の先端が人家(北上木場)の近くまで達し,水無川上流で工事をしていた作業員1名が負傷しました。
 6月3日は15時過ぎから「火砕流と思われる震動波形」(以下,「火砕流波形」と呼ぶ)が頻発し始め,16時08分には継続時間360秒の火砕流波形を観測しました。このときの火砕流は白谷町付近まで流下しました。この火砕流により死者39名,負傷者11名,行方不明3名(8月16日現在)の大惨事になりました。
 8日16時過ぎから火砕流波形が頻発し,19時51分には継続時間1500秒の火砕流波形を観測しました。このときの火砕流はこれまでの最大規模でその先端は国道57号線付近まで達し,水無川流域の多数の家屋が焼失する大被害となりましたが,幸い人的被害はありませんでした。この3日と8日の火砕流による住宅等の被害は386棟にのぼりました。
 6月11日の噴火では,火砕流による被害は発生しませんでしたが,軽石状の噴石や,火山れき等多量の噴出物が放出され,島原市北東部に多量の軽石が落下し,家屋損傷11棟,車両損傷53台,ヘリコプター損傷2機の被害がありました。

3.震動観測
 4月4日の群発地震は,普賢岳の西北西4キロメートル付近を震源とし,4日19時から24時までの間に震度3:2回,震度2:1回,震度1:2回を含む41回の地震を観測しました。4月20日の群発地震は橘湾を震源とし,20日21時から21日06時までの間に,震度3:1回,震度2:2回,震度1:3回を含む90回の地震を観測しました。4月26日には普賢岳の北西5キロメートル付近を震源とする震度4の地震を観測しました。雲仙岳測候所で震度4を観測したのは1984年10月19日以来です。
 5月12日から普賢岳を震源とする微小地震が発生し始め,5月15日から25日にかけては1日100回を越えましたが,その後地震は減少しました。
 6月27日09時11分には普賢岳の南西20キロメートル付近を震源とする地震が発生し,雲仙岳測候所で震度4を観測しました。この付近では1922年(大正11年)12月8日,死者27名の被害を出した「島原地震」があります。
 火山性微動は5月10日以降消長はあるもののその発生回数は多い状態が続いています。5月24日08時07分には,初めて火砕流の発生が確認されました。この火砕流発生時には通常と異なる振幅の大きな震動が観測され,以後雲仙岳測候所では防災上の目安として,仁田峠の観測点における微動振幅が,ある一定レベルを越えた継続時間が30秒以上の場合を「火砕流と思われる震動波形」として観測しています。

第1表 火山性地震及び火山性微動回数
有感地震回数無感地
震回数
総地震
回 数
火砕流
波形数
微 動
回 数
震度1震度2震度3震度4合 計
4 14 7 5 1 27 701 728 0 176
5 14 2 0 0 16 1,942 1,958 143 840
6 7 3 1 1 12 218 230 492 1,991
7 0 2 0 0 2 131 133 326 1,193
35 14 6 2 57 2,992 3,049 961 4,200




4 現地観測
 (1) 火口観測及び機上観測
 4月4日の火口現地観測で,地獄跡火口底が土砂噴出により,平坦な状態になり一面から湯気が出ていました。
 4月9日の機上観測では,地獄跡火口底に4個の火孔が開孔しているのが確認され,それらの外径は長径約70メートル,短径約30メートル,深さ20〜30メートルでした。
 4月20日の火口現地観測では,地獄跡火口東縁部が火山灰によりすり鉢状になっており,「ゴォー」という噴気音とともに「バシャバシャ」という土砂噴出音が確認されました。
 5月14日の機上観測では,地獄跡火口の新火口の大きさは長径約160メートル,短径約90メートル,深さ50メートル以上と大きくなり,火口周辺には人身大の噴石が確認され,地獄跡火口東側の谷への火山灰の流入が観測されました。
 5月18日の機上観測では,火口の状況は14日の観測と大きな変化はなく,火口周辺に無数の亀裂が走っていました。
 5月21日の機上観測では,地獄跡火口の溶岩ドームは直径約50メートル,高さは旧火口底より30〜40メートルで,東西,南北の4つに割れ,北東部に直径数メートル程度の火口があり灰褐色の噴煙 を高さ30メートルに上げていました。
 5月23日の機上観測では,溶岩ドームの大きさは長径約100メ ートル,短径約70メートル,高さ約40メートルと大きくなり,ドームの東端は火口東縁いっぱいに達していました。
 6月5日の機上観測では,溶岩ドームは地獄跡火口東側斜面に幅70〜80メートル,長さ約100メートルの舌状になっているのが確認されました。
 7月21日の現地観測では,溶岩ドームの崩落により,地獄跡火口北東側のカルデラ内が埋まり,火砕流は北東側水無川上流部へも流れて樹木が変色しているのが確認されました。
 8月15日の機上観測では,東側ドームは西側に成長し旧ドームとの境目がなくなりました。
 (2) 温泉観測
 雲仙地獄,小浜温泉の現地観測を実施しました。主な地点の観測結果は第2表のとおりで,特に大きな変化はありませんでした。

第2表 温泉地獄観測表
月 日小 地 獄大叫喚地獄清七 地獄お糸 地獄
泉 温5/2296℃96℃95℃94℃
6/8−−94℃94℃−−
8/760℃90℃94℃94℃
噴気温5/2296℃98℃115℃97℃
6/8−−96℃107℃−−
8/792℃97℃98℃97℃
地 温5/2296℃98℃98℃98℃
6/8−−86℃97℃−−
8/793℃98℃98℃97℃
P H5/222.7 1.6 3.2 1.7
6/8−−−−−−−−
8/72.7 2.4 5.5 2.2


 (3) 井戸の水位
 小浜町山領における井戸の水位観測の結果は第3表のとおりです。
第3表 井戸の水位
月  日5/16/96/278/7
深さ(m)8.7 8.3 6.2 6.0

5 遠望観測
 (1)地獄跡火口
 4月9日以降,5月上旬までは噴煙を最高600メートル以上に火山灰を伴った噴煙を上げ,ときどき噴石を上げるようになりました。
 5月下旬までは火山灰を伴った噴煙を50〜300メートルの高さまで上げていました。 
 5月24日以降は火砕流に伴う噴煙が高さ最高2000メートルまで上がるのを観測しました。
8月12日には「ゴォー」という噴気音を伴いながら噴煙を500メートルに上げ,高さ100メートルに噴石が上がるのが観測しました。
 (2)九十九島火口
 5月13日まで高さ10〜300メートルに噴煙を上げ消長を繰り返していましたが,その後は噴煙は見られなくなりました。
 (3)屏風岩火口
 6月8日まで高さ10〜300メートルまで噴煙を上げ消長を繰り返していましたが,その後は噴煙は見られなくなりました。

6 降灰観測
 雲仙岳測候所における降灰の観測状況は第4表のとおりです。
 8月13日の降灰量119.6g/uは雲仙岳測候所が降灰観測を始めた11月17日以降最大量でした。

第4表 雲仙岳測候所における09時の降灰量
月 日4/44/224/275/55/276/66/176/18
降灰量
g/u
0.7 0.0 6.5 0.0 0.0 3.4 67.0 13.0
月 日6/196/238/88/9 8/138/148/15
降灰量
g/u
6.0 15.1 21.1 0.3 119.6 4.8 9.1

7 噴火日
 雲仙岳測候所で確認した噴火日は第5表のとおりです。

第6表 噴火日
日 月4月5月6月7月
1日   
2    
3
4  
5    
6  
7    
8  
9  
10  
11  
12   
13   
14   
15    
16  
17   
18   
19
20   
21
22  
23  
24  
25   
26   
27
28   
29    
30  
31     
16日17日18日22日

 なお,雲仙岳測候所が発表した火山活動情報は1号から11号まで,臨時火山情報は第18号から98号までです。
 火山活動情報の発表は次のとおりです。
   第 1号 5月26日13時30分
   第 2号 5月29日19時40分
   第 3号 6月 3日16時10分
   第 4号 6月 3日17時10分
   第 5号 6月 8日17時28分
   第 6号 6月 8日19時10分
   第 7号 6月 8日20時05分
   第 8号 6月 8日20時30分
   第 9号 6月 8日22時10分
   第10号 6月12日13時05分
   第11号 6月19日14時25分