1997年1月20日付 朝日新聞(長崎版)朝刊から


人工衛星で送受信へ--全国で施設整備進む--


地震予知関係の観測をしている全国の国立大学で,人工衛星を使って相互に観測データを送受信するための施設整備が進められている.九大島原地震火山観測所(島原市)ではすでに屋上にパラボラアンテナの設置を終えた.今月中には九州中部から北部にかけての観測点にもパラボラアンテナを設置し,二月中旬から本格的な運用を開始する予定だ.

地震データ利用に国立大学ネットワーク
九大島原観測所 パラボラアンテナ設置 来月中旬から本格運用

 地震研究者の間では,地震で電話回線が使えなくなったときなどに備えて人工衛星を利用すべきだ,との指摘が以前からされていたが,予算がつかなかった.阪神大震災があり,1995年度の補正予算で事業費がつき,今年度内をめどに工事や機器の設置が進められている.

 九大島原地震火山観測所の松島健研究員(36)は「阪神大震災のときもすぐに観測機器を現地に持ち込んだが,電話が不通で,観測データを送れるまでにかなりの日数がかかった」という.

 同観測所や東大地震研究所では,人工衛星を使うメリットとして災害時のほか,衛星の同報性や機動性を生かしての全国の地震観測波形データの送受信と移動(臨時)観測の強化が図れる,としている.今も,研究者の間ではインターネットで観測データを取ることはできるが,膨大な量になる波形データなどは時間もかかるという.

 衛星通信による地震観測を中心になって進めてきた東大地震研究所の卜部卓・助教授(39)によると,北大,東北大,京大,鹿児島大など9大学で110の観測点にパラボラアンテナを設置.他に90カ所分の移動観測用の機器を整備する.全体の費用は20数億円という.

 九大のパラボラアンテナを設置する観測点(送信局)は長崎県内の福江,平戸,野母崎などと熊本,大分,宮崎県内の計9カ所.それに送受信局の理学部(福岡市)と島原地震火山観測所にパラボラアンテナを設置し,移動観測用に5カ所分を備える.関係者は「合同観測もやりやすくなる」と期待している.

(写真)九大島原地震火山観測所の屋上に設置されたパラボラアンテナ=島原市新山で